第6話 召喚の儀
準備は整った。
今日は召喚の儀を行う日だ。
よく晴れていて気持ちの良い陽気のなか、オレは朝日を浴びながら、笑顔のタミーさんと自宅の笑い声に送られて家を出た。
何が『魔力が枯渇したら私が世話をしてあげよう、家主よ』だよ。
我が家である【ライニングマジックベルト・ザ・シャトー。通称ライちゃん】は魔道具でもあるが意志を持っていて魔法も使える。
勝手に室内を変えたりすることが出来るくらいだから、あの家は割と何でも出来るのだ。
タミーさんを雇わなくても、掃除や洗濯、料理など簡単な家事くらいは魔法でチャチャッといけるらしい。
しかし、オレはあんな化け物に世話してもらいたくない。
実態を知った後は住むのも嫌だったが、国王直々に手配された官舎みたいなモノだからそうもいかないわけだ。
それにアニカが目をキラキラ輝かせて「ココに住んで研究したい」なんて言うから大人しく住んでやってるのに、あの家ときたら隙あらば何かしでかそうとするから油断ならん。
まだ何か具体的にされた事があるわけじゃないが、雰囲気で笑わせてくるヤツと同じ空気を出しながらトラブルをチラつかせるんだよなぁ、あの家。
オレはブツブツと心の中で文句を言いながら神殿へと向かった。
慌ただしく人が行き交う神殿内は、いつもと雰囲気が違う。
召喚の儀には、それなりの準備が必要なようだ。
いつもはいないメイドたちがこちらを見て頬を赤く染めている。
コソコソと噂する声が漏れ聞こえ、時々「きゃっ、ルドガーさまってばクールで素敵」とか間違った評判が聞こえてきたりして大変居心地が悪いので、さっさと仕事を済ませて帰りたい。
案内人の後について行くと、神殿内の儀式の間がいくつか続く並びへと辿り着いた。
その中の一室、奥まった場所にある部屋の前で案内人が立ち止まる。
ここに来るのは初めてだ。
扉を開け、道を開ける案内人に軽く会釈したオレは、その部屋に足を踏み入れた。
白っぽい石造りの室内には、部屋いっぱいに魔法陣が刻まれていた。
床はもちろん、それは壁伝いに天井まで続いている。
随分と複雑な魔法陣だ。
キョロキョロと室内を見回しながら進んでいくと、奥に聖女クリスティンさまと神官アズロさまがいた。
「ルドガーさま、本日はよろしくお願いいたします」
「治癒士も控えておりますので心置きなくどうぞ」
アズロさまが言う通り、治癒士たちが白い聖衣をまとってズラッと並んでいた。
万全の備えすぎて恐い。
「王族方も見守っておりますので褒賞のほうも期待できますよ」
アズロさまの言葉に治癒士たちの後ろを見れば、確かにそこには王族がいた。
「両陛下は外遊中ですので、カイル王子が同席いたします」
長身で上品な雰囲気のグレーヘア紳士が礼を取りながら言った。
おそらく王子付きの爺やだろう。
その隣には、金髪碧眼のいかにも王子という見た目の王太子の姿。
カイル殿下は確か七歳。
ふんっ、と胸を張る姿は微笑ましくすらあるけれど……子供だ。
「んっ、私が見守る。心して務めよ」
はいはい。わかりましたよ。
「魔法陣は用意されているモノを使いますので、ルドガーさまには魔力を注いでいただくだけで大丈夫です」
アズロさまが魔力の注入口を示した。
随分とインスタントな感じだな?
「ではよろしくお願いいたします」
にこやかなクリスティンさまに促される。
仕方ないので、オレは魔法陣に力を注ぎこんだ。
魔力が巡って青白く魔法陣が浮かび上がる。
たしかに魔力量が要るらしく、通常よりも消耗が激しい。
とはいえ、倒れるほどでもない。
なんだこんなもんか。
と油断した瞬間、青白い魔法陣に浮かび上がる黒い影。
おおっ、というどよめきの中、その影は揺らめきながら大きく立体的になっていった。
息を呑む人々の目前で、ゴロンと大きな音が室内に響く。
魔法陣から転がり出たのは……え? ロボット?
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