空き家

天川裕司

空き家

タイトル:空き家


俺は最寄りの駐車場で、ラジコンの飛行機を飛ばして遊んでいた。

プロポを手に持ち、童心に帰った気分だ。


でも久しぶりにやったからか、手元が狂い、

「あっ!」と言った感じにラジコン飛行機は

その駐車場とほとんど隣接していた

アパートの空き家の1室に飛び込んでしまった。


「や、やってしまった!」

その空き家は換気のためか窓が開いていて、

簡単に模型の飛行機なんて飛び込んじゃう。


俺は慌てながらもそのアパートまで行き、

偶然その時アパートから忙しそうに出てきた

そこの大家さんに会うことができ、

さっきの事の一部始終をおじさんに伝え、

部屋に入らせてもらうことにした。


「すみませんすみません!本当に申し訳ありませんでした!」

ごく丁寧に何度も謝り、少し部屋に入らせてもらって

ラジコンの飛行機を取らせて欲しい、そうお願いすると、

その低姿勢を印象よく受け取ってくれたのか。

「あーもう時間ないんだけどぉ、まぁいいか!じゃあこっちきて!」

とマスターキーを持った大家さんは

その部屋まで一緒に行ってくれ、

ガチャリとドアを開け、俺を中に入れてくれた。


「(良い人で本当によかった!)」

俺は心の中でそう言いながら

とにかくさっき飛び込んだラジコンの飛行機を

手っ取り早く回収して

早くこの部屋を出ようとした。でも…


「…あれぇ?っかしィなぁ…、どこにあるんだ…」

いくら探しても飛行機が見つからない。

その部屋はいわゆる簡易アパートの1室で、

ほとんどひと間(ま)しかないのに、

絶対すぐに見つかるであろうその飛行機が

どこを探してもないのだ。


備え付けられていたゴミ箱の中、

絶対に入ってないだろう

押し入れの中も襖を開けて見てみた。

その部屋には他に家具など何も無く、

さっき飛び込んだばかりのラジコン飛行機だから

絶対に見つかるはず。

いや部屋に入った瞬間、

目の前に落ちていて不思議じゃなかったんだ。

なのに全く無い。


「あのー、もう良いですか?時間ないんで。ちょっとこれから用事があるんですよ」

大家さんは俺を急かすようにそう言い、

「きっとこの部屋じゃないんでしょう?」

といった感じで俺を早々に引き取らせようとした。

結局それ以上迷惑をかけられず、俺もアパートを出た。


「…絶対変だ。確かにあの部屋に入ったのに…」

当然だがこの疑問がずっと残った。


その翌日。

俺はもう1度このアパートにやってきた。


そしてまた大家さんにお願いして、

あのとき確実にあの空き家にラジコンの飛行機を

飛び込ませてしまったことを伝え直し、

「無いなんて事は絶対に無いんです」

と何度も訴えた後、首をかしげる大家さんと共に

もう1度あの空き家に入ることができた。


その日は少し大家さんにも時間があったので、

とりあえず一緒に探してくれた。

でも大家さんは探している間も、

ずっと不思議そうにしている。そして一言。


「この部屋にラジコン飛行機なんかが飛び込むなんてこと、絶対ないと思うんですけどねぇ?だってこの部屋、ずっと窓閉めてたはずなんですよ?」


動画はこちら(^^♪

https://www.youtube.com/watch?v=rziNbS2Utkc

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空き家 天川裕司 @tenkawayuji

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