手癖の悪さ

「あたし、盗んでしまうんです。なにもかも、誰かの物を」


「それは大変だね」


「貧しいのが悪いと思ってお金持ちと結婚しました。自分がからっぽなのが悪いと思って本を山ほど読みました。それでも」


「それはつらいね」


「お医者さんにもかかったの。がんばって直そうとしたの。いつ気付かれるか、私の罪が白日の下にさらされるかを考えると気が気でなくて」


「盗んだものは今どこに?」


「全部返しています。その場で、すぐに」


「じゃあ、問題ないんじゃないかな」


「いつか、ああいつか本当に、本当に盗んでしまうかもしれないじゃない。ああ、わたしは罪深い女です」


「なるほど。すこ~し頭の、このあたりを貸してくださいね」


「あっ」


「返さないけど」


 女はすべてがつまらなくなったが、心穏やかに過ごしているという。

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