悪役貴族は両手に最強を携える〜右手に封印した邪神、左手に原作知識チートのメインヒロイン〜
あおぞら@書籍9月3日発売
第1章 原作知識チートのメインヒロイン様
第1話 夢だと思ってやらかした奴
———俺は、何がしたかったのだろう。
薄暗い地下奥深くであろう場所にあるシンと静まり返った祭壇。
十数本のろうそくの火だけが真っ暗な地下室を照らし、影が陽炎のように揺らぐ。
そんな如何にも怪しげな地下空間で、様々な気持ちの悪い贄の置かれた漆黒の魔法陣の中心に立ちつつ、俺は至極真面目な顔で自問自答する。
いや、ホントにマジで何がしたかったんだ俺?
ちょっと自分で自分が何をしているのか分からんっていう意味不明極まりない事態に陥っているんだが。
「お、オルガ……お、お前……!?」
「オルガちゃん……なんてこと……!?」
ほら、俺のせいで父さんも母さんも驚いてるじゃん。
見てよ、世にも悪名高い2人でさえ目ん玉がこれでもかと飛び出そうになってるって。
「は、ははは……」
俺は2人の反応から自分のやらかしたことのヤバさに気付くと、乾いた笑い声を上げながら自分の右手に視線を向ける。
———禍々しい紋章が浮かび上がった右手の甲と、侵食されたかのように真っ黒に変色した右腕を。
一体俺が何をしたのか……何をしてしまったのか。
それは一言で表して良いものではないが、まぁ一言で表そう。
———邪神を右手に封印した。
誰しもが本当にコイツは何をしているんだと思っているんだろう、手に取るように分かるさ。
ああ、分かっているからみなまで言うな。
元はと言えば、夢だと思ったのがいけなかったんだ。
何か自分が何者か分かるし妙に現実味があるな……なんて思いつつも、夢だと信じて、現実では絶対出来ない———他の人が敷いたレールから大きく外れることしよっと……などと考えたのがいけなかった。
本来、邪神と呼ばれる存在を呼び出して力を借りるだけでよかったらしい。
父さんも母さんも邪神の力を半分借りるだけでも御の字だと言っていたほどである。
しかし、この現象を夢だと錯覚した俺は、他人の敷いたレールを歩む人生に飽き飽きしていたというのもあり……『夢くらい好き勝手してやろう!』と意気込んだ。
そして———召喚した邪神そのものを全て取り込み、俺の右手に封印してやった!
それと同時———物凄い激痛と頭が冴え渡る感覚と共に、この現象が夢でなく現実だと理解した。
そこからはもう……頭真っ白。
だって誰も転生しただなんて思わなんだ。
あんなのフィクションだけじゃん、現実で起こるわけ無いじゃん。
———起こったんですねぇ……最悪だ。
「ど、どうしよう……」
「お、オルガ、大丈夫なのか!?」
「そ、そうですわ! 身体に怪我は!? どこか変なところはありませんこと!?」
あまりの展開の早さ(自らがそうした)に呆然としながら零した俺の下へと、金髪碧眼の男女———父さんと母さんが駆け寄ってくる。
2人とも俺の身体のあちこちを触りつつ、声を震わせて瞳に焦燥を浮かべながら心配してくれていた。
どうやら家族には優しい親の様だ。
外に対しては物凄く冷徹だが。
「あ、あぁうん……。一応、大丈夫……なはず、多分ね」
「そ、そうか……。ああ、心配したぞ……」
「そうですわ……。無事で良かった……」
そう言って、2人は俺をぎゅっと抱き締める。
まるでもう2度と手放さない、とでもいうように。
……この人達、本当に悪い人?
めちゃくちゃ子供を溺愛する親バカな気がするんですけど。
いやでも記憶の中だとここまでじゃ……。
おっと、とんでもない自らのやらかしへのショックで自己紹介を忘れてた。
俺の名前は———オルガ・ダークネス・フォン・レーヴァテイン。
アインヘルツ王国の公爵家にして、国中から『悪徳貴族』というレッテルを張られた悲しい貴族家の一人息子。
まだ年齢は10歳で、公爵家だからか顔面偏差値はバカ高く、両親から受け継いだ貴族に多い金髪碧眼はマジで綺麗。
ちょっと傲慢な所こそあれど……非常に優秀で天才と評される神童だ。
うん、だからこそ、俺が転生したなんて思わなかったわけだが。
そんなラノベのありがちな転生先に転生するなんて思いませんですやん。
実際転生したから今困っているんだけど。
「……父上、邪神を封印したら力はどうなるのですか……?」
「う、うむ……。このようなことは前代未聞なのだ。悪いが……分からん」
お、おーまいがー。
これ、完全にやらかしちゃってますやん。
———こうして、俺の前途多難極まる転生生活は、自らのやらかしの尻拭いからの幕開けとなった……。
「———オルガ・ダークネス・フォン・レーヴァテインね? アンタも転生者でしょ? そうでないと邪神を自らの身体に封印するなんていう……原作者が語った正解中の正解を引き当てられるわけないもの」
「…………は??」
本当に、本当に前途多難な転生生活が幕を開けた———。
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明日から10話まで2話投稿。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。
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