第39話 三人の帰り道

 その円盤のスピードは、以前の比ではなかった。ばらばらになった〈ヌーズ〉へ賦活効果を高めた温泉水で再び接合し、主動力を温泉水に完全シフト、武装としてビーム砲と蒸気エネルギー放射以外にも、三本のエネルギーブレイドを搭載した、〈ハイパーヌーズ〉だ。〈ハイパーヌーズ〉はその千本の触手の数を一本でも減らさんと突撃した。


「切り刻む!」


 エネルギーブレイドが円盤から伸び、高速回転。次々と触手に触れる。だが、流石に大気圏突入の際船体を保護する役目すら担える触手はその程度攻撃で断てるものではない。逆に集中砲火を浴びる。その全てを蒸気状になったエネルギー層で弾き飛ばし、逆にビーム砲で応戦する。だが、全くダメージは見られない。


 すると、一本ではダメージが望めないと見たか、〈センチポッド〉は驚愕の変形を見せた。触手同士を絡ませ、胴を作り足を作り尾を作り腕を作り、怪獣のような形をとったのだ。

 その極太となった触手から放たれたビームは、まるで目の前に太陽が現れたかのような輝きを放つ。


 瞬間、蒸気を当然放つ〈ハイパーヌーズ〉だが、そのバリアも一瞬で蒸発した。直撃を受けた〈ハイパーヌーズ〉はくるくると宙を舞い、地面に不時着した。


『大したことないな、宇宙人!』


〈センチポッド〉は二本足で地面を抉りながら歩いてくる。〈ハイパーヌーズ〉も負けじと立ち上がり、ビームを何度も放つが、まるでダメージにはならない。再び空をとぶと、今度はその本体、今は怪獣の頭部となっている場所へ一直線。当然それを迎撃するために両手から、ビームを放つ。その姿は光の二刀流。天も地もまとめて焼き払う。それでもなお、〈ハイパーヌーズ〉は挑発するように〈センチポッド〉の頭の周りを飛んだ。流石にその辺りを飛ばれると、ビームを撃ちづらいからだ。すると今度は右手の結合を解き、約二百の触手と砲門に変え〈ハイパーヌーズ〉を付け狙った。次々と飛びくる触手に手を焼いていると、ついにその一本が〈ハイパーヌーズ〉を捉えた。更に次々と絡みくる。すると、〈ハイパーヌーズ〉はその主動力を全開にし、なんと〈センチポッド〉を引きずり始めたではないか。


「あいつにできて、おれたちにできないわけがない!」


 ゼロ距離からビームを受け、〈ハイパーヌーズ〉操縦室いっぱいに警告音が広がる。それでもなお、〈ハイパーヌーズ〉は引っ張ることをやめない。


『ほほう、すごいな、お前たちの未知のエネルギーは!』


 余裕。〈センチポッド〉を操るハーミス・タナーは楽しげに言う。


「タセルニット!」 


 操縦席の中、マネルニットは指示を出す。待っていた、と言わんばかりにタセルニットはエネルギーブレイドを展開、一瞬にしてまとわりついていた触手を寸断した。するとどうだろう、急に手を離されたかのごとく、〈センチポッド〉がわずかにバランスを崩した。しかし、その巨体その重量、僅かなバランスが命取りとなった。


「爆破!」


 バランスが崩れるのに合わせ、その足元が爆発した。そして、地面から湧き出すのは大量の水。泥となったそれは、ぐびぐびと〈センチポッド〉を飲み込んでいく。


『まさか、これが狙いか?』


「それは、ただの水じゃないんだぜ」


 泥から湯気が立っている。すなわちそれは温泉だった。研究所と協力し、温泉の水脈に爆弾を仕掛け作った巨大兵器用の落とし穴だった。


 しかし、それが沈んでいくのを傍目に、〈ハイパーヌーズ〉も不時着をした。


『笑止!』


だが、〈センチポッド〉の反重力ユニットは全身に及ぶ。その前身が輝き、浮上を始めた。


「話を聞かねえな。やっぱり途上人に宇宙は早い。そうだな、カケルニット!」


 マネルニットの声に答えるように、カケルニットはスイッチを押した。その途端、〈センチポッド〉の沈んでいる足元がまばゆく輝いた。


「その温泉はすべて、エネルギーに還元する!」


 つまり今、〈センチポッド〉は爆弾の中にいるのと同じだった。次の瞬間、火柱が〈センチポッド〉を包んだ。


「通信障害発生。レーダーが一時使用不可です」


 タセルニットが言う。


「最後だ。見届けてやろう」


 マネルニットはそう言って、三人を引き連れて外へ出た。もう、〈ハイパーヌーズ〉は動かない。


 もうもうと上がる煙、それを一瞬にして吹き飛ばし、〈センチポッド〉は飛んでいた。


『おのれ、反物質砲を使わせたな』


 その爆発は、温泉のエネルギーを相殺するために放たれた反物質砲の爆発だった。猛烈な量の対消滅が辺りを焼きつくし、その範囲は〈センチポッド〉にも及んでいた。触手の束の足が一本欠けている。


『だが、これまでだ』


〈センチポッド〉はその砲門をイガカ星人へ向けた。


「お前の不幸は、落とし穴にハマった時、身を挺して守ってくれる友がいなかったことだ」


 その瞬間だった。空から、大気圏を突き抜け接近する物体があった。それは、地球の衛星軌道上においてきた、マネルニットたちの乗ってきた宇宙船そのものだった。反物質砲による周囲の電磁場の歪みがその発見を遅らせていた。


『まさか』


〈センチポッド〉はビームを放つが、反物質砲に上記のエネルギー層が散乱したこの空間では、当たらない。そして、


『おのれ、宇宙人が!』


 仮にも縮退炉を搭載した宇宙船だ。直撃し爆発すれば、倒せるだろう。衝突、衝撃! 爆炎がグングン伸び、それよりも早く爆発の光があたりを駆け抜け、三人に注ぐ。


「終わった、か」タセルニットは言った。


「マネルニット、宇宙船なくなっタ。もう帰れなイ」カケルニットはしかし、どこか満足そうに言う。


「馬鹿野郎、おれたち悪人は、こうでもしなきゃ、帰れねえだろうが」


 爆炎は、三人にも降り注ぎ、巻き込んだ。

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