第10話 2皿目 カリュドールのロールカツとパンチェッタ①

「初心者講習会に参加のみなさーん! お集りくださーい」


 管理ギルドの受付嬢、エミリーの明るい声が響き、ガーデンの入り口前に新米冒険者たちが集まってきた。

 エミリーは、ひとりひとりに赤い石があしらわれた銀色の指輪を渡していく。


「指輪は必ず指にはめてくださいね。その石に転送先の情報が入っています。ガーデンに滞在できるのは最長で3日間です。途中で帰りたい時は転送先の拠点に戻れば自動的に入り口へ戻されます。3日経ったら強制的に戻されるので、冒険は計画的に行ってくださいね」

 新米冒険者たちは不思議そうに指にはめた指輪を見ている。

 この指輪ももちろん魔道具のひとつだ。


 ギルドの依頼や冒険者の希望、経験に応じてガーデンのどのポイントに転送するのが妥当であるかを判断して指輪を渡す受付担当の仕事は、責任が重い。

 肩の上でふんわり切り揃えたボブカットのせいか、それとものんびりした口調のせいか、エミリーの年齢はわかりにくいがそれなりのベテラン職員だ。

 

「屍になったとしても指輪をはめていれば3日後には必ず戻ります」

 エミリーはにこやかに説明を続ける。

「冒険者カードは首から下げていますか? たまに3日後に指輪だけ戻ってくることがあるんですよ。ドラゴンの灼熱の炎で焼かれて肉体が残らなかったり、食べられたりした場合でも冒険者カードだけは残る仕様になっています。カードが捜索の手がかりとなりますので、必ず携帯してくださいねー」

 

「なあ、あのねーちゃん、笑いながらなにげに怖いこと言ってないか?」

 集団の後方で話を聞いていたテオが、横に立つリリアナを見る。

「ていうか、テオはこないだそうなりかけたでしょ。あのまま誰にも発見されなかったら指輪だけ戻ってくるところだったのよ?」


 草原エリアに生息する夜行性の魔物は、大きな牙を持つファングウルフや骨まで全て食い尽くすグリーンハイエナなど食欲旺盛で獰猛な肉食系が多い。

 偶然ハリスとリリアナがあの場所を通りかからなかったら、テオはいまごろ死んでいたかもしれない。


 初めてガーデンの冒険者登録をする際には初心者講習会への参加をすすめられるのだが、自由参加のためまどろっこしい説明抜きですぐにでも冒険に出たいというせっかちな人は講習会をスキップしてしまう。

 テオがそのいい例で、いわゆる「説明書を読まないタイプ」というやつだ。


 リリアナは呆れたようにテオを一瞥すると、腕に抱えているコハクの白く柔らかい毛並みを撫でた。

 

 

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