第45話 この時間のために生きてきた

 二学期が始まる日から、俺と彼女は毎日一緒に登校することにした。


 待ち合わせ場所はいつもの別れ道。いつもはお別れの道なのに、これからは出会いの道にもなる。どうやら先に着いたのは俺のようだ。


 それから少しして、美少女が駆け寄ってくるのが見えた。でも少しの違和感がある。


冴島さえじまさん、お待たせしました!」


月花つきはなさん、髪切ったの?」


「えへへっ、やっぱり気がついてくれるんですねっ!」


 黒髪ロングは変わらないけど、目にかかるほど長かった前髪が程よく切られているんだから、よほど鈍感じゃない限りは分かる。

 前髪なしっていうんだったっけ? センター分けなので、おでこが出て活発な印象になった。


「それじゃ行こうか」


 俺はそう声をかけたけど彼女は動かない。


「月花さん?」


「まだ感想を聞いてないもん」


 彼女が口をとがらせる。


「可愛い」


「やったぁ!」


 俺の言葉で彼女が喜んでくれる。それが嬉しくて俺は隣にいる彼女に、スッと左手を差し出した。彼女は俺の意図に気がついて、俺と手を繋いだ。


 学校に近づくにつれ、他の生徒がざわつき始める。それもそうだろう、イケメン(扱い)で有名な俺と、冴えないことで有名な彼女が手を繋いで登校してきたんだから。いいぞもっと見てくれ。何もおかしなことなんてないんだ。


 校門をこえて校舎へと向かう途中で、一年生のたわわ美少女と出会った。この女の子も冴えない扱いをされているけど、持ち前の明るさで乗り切っている。


 そして彼女の話し相手になってくれたりした。この子の存在も俺達には大きかったんだ。「お二人お似合いですっ!」と言って、慌ただしく校舎内へと入っていった。


 さらに進むと今度は甘泉あまいずみ先輩と出会った。この人も冴えない扱いをされているけど、全く気にしないというスタイルを貫いていて、カッコいい。


 彼女のよくない噂が流れた時、親身になって相談に乗ってくれ、情報を教えてもらった。この人もまた、もしもいなかったら今の俺達はなかったと言ってもいいほどに、大きな存在だ。


 甘泉先輩は「月花ちゃん元気そうだねっ!」と小さく手を振って、三年生の校舎のほうへ向かって行った。俺も元気なんですけどねっ!


 教室にも手を繋いで入る。わざわざ交際宣言をするのもどうかと思うので、俺達からは特に何も言わないことにした。

 すると早速、俺達に話しかけてくる美集院びじゅういんさん。金髪縦ロールの女の子だ。今更ながら毎朝その髪型にして来るなんて、とんでもない手間だよな、すげぇ。


「あら? あなた達もしかして……?」


 美集院さんは俺達を見て何かを察したような口ぶりだ。


「そうですの。月花さん可愛いですものね」


 美集院さんはこの世界の超美少女だから、周りへの影響力は結構ある。そんな美集院さんが彼女のことを可愛いと言った。それが地味に……と言ったら失礼かもしれないけど、空気感というものを変える。それもまた、『見た目が冴えない=酷い扱いをしてもいい』という風潮が払拭されるきっかけになるんだ。 


「美集院さん、いろいろとありがとう!」


 俺は心からのお礼を伝えた。


「べっ……、別にあなたのためじゃないんですからねっ! 月花さんのためですわっ!」


 美集院さんはさっきまでの落ち着いた様子から一転、「フンっ!」と顔をそむけた。

 可愛いとは見た目だけに限った表現じゃない。だから美集院さんも可愛いと俺は思う。


 教室にはまだ気になるメンバーがいる。この世界のイケメン百本桜ひゃっぽんざくらと、合コンの時にいた女の子四人組だ。百本桜は俺達を見てにらみ、女の子達は睨んだり目をそらしたり、それぞれの反応をしている。


 その五人は特に見た目への差別意識が強い。そのせいで自ら幸せを手放していっているんじゃないか? 女の子達は他校のイケメンとの繋がりを失い、百本桜は大半の生徒からダサいと言われ、美集院さんに告白をするもそれを理由にフラれた。


 俺達と多少のトラブルになって以降は一言も話していない。少しは考え方を改めていればいいんだけど。


 そして昼休みも彼女と一緒に食堂で過ごす。時にたわわ美少女と甘泉先輩と美集院さんも一緒に。もちろん下校も彼女と二人。少し違うのは手を繋いでいること。大勢の生徒に見られていても気にしない。それは彼女も同じだった。



 珍しい光景もそれが続けば当たり前の光景になる。一ヶ月が経つ頃には俺と彼女を怪訝けげんな顔で見てくる生徒はいなくなっていた。俺も彼女も同じクラスの人と話すことが多くなった。俺はまさにこんな状況を目指していたんだ。


 下校中、彼女と肩を並べて歩く。一人だと足早になるけど、彼女と二人なら少しでも一緒にいたくて、歩き出すことが惜しいとさえ思う。


 俺は今まで見た目で得をしたことは一度も無い。損ばかりしてきた。それはどうしようもないことだと、受け入れたこともあった。


 でも俺は諦めなかった。そして放っておけなかったんだ。元の世界で見知らぬ冴えない女の子が、酷いフラれ方をされているのを見た時、励まさずにはいられなかった。


 もちろん見返りを期待していたわけじゃない。本当に傲慢ごうまんだと思うけど、その女の子には生きていてほしかったんだ。


 でも俺自身はその帰りに事故に遭って、この世界に転生した。なんとも笑えない冗談だ。


 でも後悔なんて全く無い。そのおかげで俺はまたしても、見た目だけで酷い扱いをされている女の子を笑顔にすることができたんだから。


「冴島さん、私は今までこの時間のために生きてきたのだと思います」


「それは俺だって同じだよ」


「あの……冴島さん? 明日のお休み、冴島さんの家に泊まっていいですか?」


「もちろんいいよ」


(諦めなくて本当に良かった……!)


 俺達が今まで苦しんだ時間は、いわば失われた時間。


 時間は巻き戻らない。だけど取り戻すことはできる。これからは楽しいことをたくさんしよう。たくさんの人と友達になろう。そして幸せになろう。俺は彼女となら、きっとそれができると確信しているんだ。



(了)


─────────────────────


【あとがき】


 最後まで読んでいただき、ありがとうございました! テーマというと大げさですが、このご時世で厳しいことを物語の中心にしました。

 それでも多くの方に読んでもらえて、本当に嬉しいです。楽しんでいただけましたでしょうか。良かったと思ってもらえましたら、評価をお願いします。


 応援・星評価・フォロー・コメント等、本当に励みになりました。ありがとうございます!


 これで長編三作品が全て完結済になりました。エタらないことを一つの活動方針としてます。


 ラブコメの他にも異世界ファンタジー・現代ファンタジーも書いていく予定です。ある日突然新作を投稿すると思いますので、ぜひとも作者フォローをお願いします!


 よければ別作品もどうぞ。どちらも(自分にしては)好評いただいた作品です。どちらも社会人が主人公です。もちろん完結済です。できれば評価もいただけると……。(小声)


ファンタジー要素あり現実世界ラブコメ

https://kakuyomu.jp/works/16818093074624104120


現実世界ラブコメ

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 ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!


猫野 ジム

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美的感覚が逆転した世界に転生した冴えない俺、自分に自信が無い美少女を励ましていたらモテまくった 猫野 ジム @nekonojimu

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