第3話 ざまぁ対象発見

 今朝、俺の背中にぶつかって、通りすがりの男子から心無い言葉をかけられていた、黒髪ロングが似合う美少女、月花つきはなさん。


 彼女が下校で教室から出たところを俺は声をかけた。


「私といると目立ってしまいますよ。だって私、可愛くないから……」


 月花さんはそう言った。普通、美少女がそんなことを言ったら、嫌味と受けとられて一瞬で嫌われるだろう。


 ただここは人に対する美的感覚が元の世界転生前の世界と逆転した世界だ。

 つまり転生者の俺から見て超絶美少女の月花さんは、この世界では超絶冴えない女の子ということになる。だからさっきの言葉は、月花さんの本心ということだろう。


「そんなことはないよ。月花さんは可愛いと思うよ」


 今までの俺なら絶対口にしないであろうセリフだ。でも、こんなにも自信のない彼女を見ていると、どうにか元気になってもらいたいと考えるのは自然なことだろう。


「ありがとうございます。私を気遣ってくれてるんですね。でもそれじゃ冴島さえじまさんが嘘つきになっちゃう」


「嘘じゃないって。本当にそう思ってるよ」


 そうは言ったけど俺だって元の世界でほぼ初対面の美少女から、「冴島君はイケメンだと思うよ」と言われたら、「社交辞令ありがとう」と思うだろう。


 きっと、つらい経験をする度に段々と自信を失っていったんだろうな。敬語なのも遠慮からきているのかもしれない。なんとかして自信を取り戻してもらいたい。


「だって冴島さんすごくカッコいいから、私なんて眼中にないですよね」


「そんなことはないって」


 困ったな、どうにかして信用してもらえないかな。


「よう、お前冴島っていったか?」


 俺が考えをめぐらせていると、後ろから名前を呼ばれた。振り返ると、一人の男子が立っている。高二としては背が高いほうか。金髪で短髪だ。校則どうなってんの? その辺りも異世界の価値観なんだろうか?


「お前、少しばかり顔がいいからって調子に乗るんじゃねえぞ。美集院びじゅういんさんを悲しませやがって」


 この男子には見覚えがある。同じクラスだ。俺と同じくイケメンとして女の子から人気があるようだ。この世界でイケメンってことは……そういうことだ。元の世界ならきっと親友になれると思うんだ。いや、無理か。性格が悪そう。「ヒャッハー!」とか言いそうだし。


 それにしても、「美集院さんを悲しませやがって」か。惚れてるんだな。もしかして自分が相手にされないから、美集院さんに気に入られてる俺が気に入らないのだろうか?


「確か……百本桜(ひゃっぽんざくら)君だっけ?」


 この世界の目立つ人って、名前が強すぎる。


「けっ! お前に名前覚えられても嬉しくねえな! そんなことよりなんだお前、美集院さんには冷たくして、そんなブサイクと仲良くなろうとしやがって」


 こいつ……人に言ってはいけないことをアッサリと言う奴なんだな。

 月花さんはというと、下を向いたまま顔を上げようとしない。こうやって月花さんの自信が少しずつ失われてきたんだろう。


「誰に対してもそれは口にしてはいけないセリフじゃないか?」


「何言ってやがる。お前だって本当はそいつがブサイクだと思ってんだろ?」


「思ってない。それよりもまたそんな言葉を口にしたな?」


「はっきり言ってやったんだろーが。そのおかげで現実に気がつけるんだ。むしろ俺に感謝するべきだろ」


(こいつ、許せん)


「月花さんに謝れ」


「誰が謝るかよ! お前こそ美集院さんに謝れ」


「あっ……あの! もうやめてください!」


 きっと精一杯であろう声の大きさで、月花さんが止めに入った。それからほんの数秒、時が止まったかのようだった。


「チッ、くだらん。時間の無駄だ。だが冴島、俺はお前を認めねえ!」


 百本桜はそう言い残して去って行った。きっとあいつはずっとイケメン扱いされてきたのだろう。そうでない人の苦悩なんて、考えにも及ばないということか。


 イケメンが悪いわけじゃない。あいつの性格が悪いんだ。あれこそまさしく反面教師というやつだ。追放物のラノベなら、間違いなくざまぁ対象だろう。もう俺がざまぁしたいよ。


「月花さん、大丈夫?」


「はい……。大きな声を出してごめんなさい」


 月花さんが謝ることなんて無いのに、まず謝ってしまうクセがついているのかもしれない。


「それよりもやっぱり、私といると冴島さんにご迷惑がかかるみたいです」


「あれは俺が恨みを買ってただけだから、月花さんのせいじゃないよ」


(ほとんど言いがかりだったけど)


「もしよかったらでいいんだけど、これから一緒に帰らない?」


 俺がそう提案すると、月花さんはスッと俺の横に並んだ。


「……ご迷惑じゃなければ」


 今は俺と月花さんが一緒にいることが変に見えても、それを『当たり前』にすることができるよう、俺は頑張ってみたくなった。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る