第2話 まおう の ものがたり

まぞく の おうこくに、おとこのこ が うまれました。


かれ は おとうさん が『まおう』だったので、いつのひか『まおう』になることが  きまっています。


おとこのこ は、いつか じぶんが『まおう』になると しって うれしくなりました。


だって だいすきな おとうさん と おなじに なれるんですから。


だから、さみしい きもちも いまは がまんします。


おとこのこ が うまれたときに おかあさんは しんでしまったけど、それもさみしい なんていいません。


やさしくきびしい おねえさんみたいな ひとが いつも そばにいてくれるから がまんできます。


おとうさんは いつも みけんに しわをよせて むずかしい かおをしているから、かんたんに はなしかけたりできません。


にんげんたち との あらそいのことで あたまが いっぱいなので、おとうさんと いっしょに あそぶこともできません。


それでも おとこのこは がまんできます。


おとうさんから うけついだ ちからが つよすぎて、いっしょに あそべる おともだちも できないけれど さみしい なんて いいません。


いつか おとうさんに おいつくんだって、いっしょうけんめいに まけんをふりつづけます。


いっしょうけんめい、いっしょうけんめい。


おとうさんのために、みんなのために。


そんな おとこのこの どりょく が みのったのか、あるひ おとうさんに よびだされて いわれました。


“きょうから おまえが『まおう』になるのだ”


おとこのこは とても よろこびました。


やっと おとうさんに おいつけた。


おいこせた わけじゃないけれど、がんばって がんばって やっと おいつくことが できました。


うれしくて うれしくて、おとこのこは おねえさんみたいな ひとに よろこんで はなしました。


おねえさんみたいな ひとは さみしそうに わらっています。


つぎのひから、おとうさんは おおきな へやに こもってしまい、おとこのこは おとうさんと あうことが できなくなりました。


おとこのこは さみしい きもちに なりましたが、やっぱり さみしいだなんて いいません。


おとこのこは もう『まおう』なのですから。


がんばって まぞく の おうこくを まもっていれば、いつか おとうさんが えらいぞって ほめてくれるはずです。


だから とても がんばりました。


いっしょうけんめい、いっしょうけんめい。


おとうさんのために、みんなのために。


きがつくと おとこのこは、もう おとこのひと に なっていました。


まぞくにとっての りっぱなおとな、だれもが あこがれる まおうさま です。


まぞく は ながいき なので、にんげん の こどもが おじいさん に なって、そのまごが またおじいさん に なっても たりないくらい、まおうさま は まぞく の おうこくを まもりつづけました。


おとうさんとは、あえません。


どんなに いっしょうけんめい みんなのために がんばっても、おとうさんは おおきな へやから でてきてくれません。


ちょっとだけ かなしくなりましたが、まおうさま には そのかなしい きもちをつたえられる ひとが いませんでした。


まおうさま は まじめだったので、それでも がんばりつづけます。


いっしょうけんめい、みんなのために。


がんばって、がんばって、おとうさんが どんな かお だったか わすれてしまいそうになったころ、まおうさま は よびだされます。


おとうさんの おおきな へやに。


まおうさま は とても うれしくなりました。


いままで がんばって きたんだから、きっと ほめてもらえる。


えらいぞって、あたまを なでてもらえる。


まおうさま は もうおとな でしたが、そんなことが あたまにうかぶくらい うれしかったのです。


まおうさま は おおきな へやで、いまは もう だいまおう と よばれている おとうさんと ひさしぶりに あいました。


おとうさんは、まおうさま の しっている おとうさんじゃ ありませんでした。


おとうさんは まおうさまを ほめてくれませんでした。


おとうさんは あたまを なでてくれませんでした。


おとうさんは、これまで がんばりつづけた まおうさまに───────────と いったのです。


まおうさま は、にげだしました。


これまで いっしょうけんめいに まもった すべてをすてて、にげだしました。


おとうさんが おってこれない にんげん の せかいに にげこみました。


にげて、かくれて、ひっそりいきて。


にんげん の こどもが おとなになるくらいの じかんが すぎました。


まおうさまは、『まおう』だったことも わすれて しずかに くらしています。


なにか たいせつなことを いわれたきもする けれど、ひっしに めをそらして いきています。


きれいな にんげん の せかいを ながめながら、だれともかかわらずに いきています。


いまは まだ、まおうさまの かくれたおしろを おとずれるひとは いません。



いまは、まだ。



これが、『まおう』と『ゆうしゃ』の ものがたりが はじまるまえの、まおう の ものがたり。


とおく、ながく つづいていく ものがたりの、はじまり の はじまり。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る