乾杯

 イネスに「待った」と言われたので、アポロは止まった。


 イネスはアポロを見据え、少し真面目な口調で言った。


「アポロ、アポロが旅に出たいのは何となく分かったよ。だけど、エネルギーが切れたらどうするんだい? 運よく使えるままで残っているエネルギー貯蔵庫が、ほかに、見つかればいいけど」


 アポロは腕を組んだ。


「エネルギーが切れたら、そのときはそのときです。貯蔵庫が見つかれば、補給できて御の字ですし、できなければ、それはそれで」


 イネスは首を傾げた。


「行き当たりばったりだなあ。アポロらしくない。せめて、エネルギーを持てるだけ、持っていこうよ。そんなに重くないはずだし」


 二体は地下のエネルギー貯蔵庫に、再びやってきた。そこで、手ごろなリュックサックと、密閉容器を見つけ出した。


「これにエネルギーを入れて行こう」


「どうして、リュックも容器も二つなんですか?」


 アポロはイネスに聞いた。


「僕も一緒に行くからだよ」


 イネスは答えた。アポロはイネスをじっと見つめて、黙った。


「アポロがダメというなら、もちろん、行かないけど」

 

 アポロは即座に反応した。


「ダメじゃないです。イネス、イネスも旅に出たかったのですね。気がつきませんでした。では、一緒に行きましょう」


 アポロとイネスは、それぞれの食事用のコップにエネルギーを入れて、高く掲げた。そして、かつて、マスターたちがやっていたように、乾杯、した。


 旅立ちに、乾杯。 

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