転生したら吸血鬼…⁉︎〜異世界美人の血を吸いながら冒険者ライフを無双する〜

ししおどしたん

異世界転生

第1話 転生

 放課後。

 高校からの帰り道。

「この漫画ちょーおもろい!」

「『さきのみ』?」

「そう!まじ貸してくれて感謝!!」


 オタクに優しいギャル。

 太古からその実在を否定されてきたまさに伝説の生物。

 オタクがオタクを少しでも救うために生んだ気休めのモンスターとも言えるだろうか。

 俺もはなはだ信じてなどいなかった。

 けどいた。

 ここに。

 なんかいたわ。


 俺は今そのオタクに優しいギャル《幻獣》と2人で帰っている。

 しかし俺はいわゆるオタクとは鍛え方が違う。

 女子にちょっと話しかけられただけでオドオドしたり勘違いすることはない。

 まあ昔はしてたけどね?

 勢いで告ったりもしたけどね?

 うん……。


「で、どのカップルが推しなの?」

『さきのみ』とは、多くのカップルがなんやかんやカクカクしてシカジカして殺し合う物語。

 オタクくーん漫画教えてよーのノリで紹介するものではない。

 しかしその時ちょうど持っていた漫画がこれだったのでテキトーに紹介したらなぜかハマりおった。

 WTF《わっだーふぁっく》。


 んでまあ6巻ぐらい貸したからそろそろ推しカプもできただろうということでいてみた。


 しかし幻獣相手に日本語が通じるかどうか…。

「ん〜やっぱ『やまあか』カプかなぁ〜」

 山本&赤梨カップルが推しらしい。

 てか日本語は通じるのか。

 なら大丈夫そうだ。


「いや『やま』が『さき』を助けようとしてたんはガーチャー蛙化かえるかだったけどぉ〜、『やまあか』なった瞬間にオニハオよ!!つか『たかまな』カプ推してるやつらはなんなのあれ?まじあの2人見るだけでメンブレなる。ねえてかウチのきょこマジ羽ばたいてない!?あGet Real来た」

「あ、え、ニーハオ……」

「は?」


 前言大撤回。

 どうやら言語での意思疎通は見込めないらしい。

 知らない言語のリスニングさせられてんのかと思った。


 つか途中ニーハオ言わんかったかこいつ?

 中国語は話せるんかと思って挨拶返したらそもそも違うんかよ。


「つかオタクくんGet Realやってないの?」

 Get Real。みんなが同じ時間にその場で写真を撮って共有するアプリ。

「うんやってない」

 やってるわけない普通に。

 共有する人いないんだわ。

 何が悲しくて1人でリアルタイムを虚空に共有しないといけないんだ。


 つかオタクくんって呼ぶのやめてくれんかな。

 いやたしかにオタクではあるけどだからってオタクくんって呼ばれるのは明らかになんか違うわけでそもそも俺にだってちゃんと名────。

「────はいオタクくんも写って」

「うぃす」

 パシャ。

 うぉぉ。

 俺もついにGet Realデビューか。

 感慨深かんがいぶかいな。

 てかオタクくんと写って大丈夫なんですかね?

 

 それよかこいつまたオタクくん呼びしたなおい。

 ……ん?あ、俺もこいつの名前知らんわ。

 呼び方とかなんでもいっか。


「今日も漫画持ってく?」

 俺は『さきのみ』の漫画をこいつに貸しているが、学校に持って行くのは面倒なのでいつも俺の家まで来てもらっている。

 まあ歩いてすぐだしいいよね。

 ………シタゴコロ?

 いや、ちょ知らないなその単語。

 調べとくわ。


「ん〜いや今日はバイトが、いや行けるわ。借りる借りる」

「また3巻分でいい?」

「もち」

 全27巻の漫画だが、一気に5巻や10巻は重たいだろうと思って3巻ずつ貸している。

 話す回数を増やしてる?

 下心?

 無いって。


 俺はただこの幻獣の研究をするために、接触回数を仕方なく増やしてるんだ。

 べ、別にワンチャンあるとかはお、おお、おおお思ってないし。

 ということで、この幻獣を観察していきたいと思いまーす!


 ただ歩きながらガン見はさすがにキモいからチラチラ見るだけですはい。

 あとずっと歩きスマホしてるしなんならいつの間にかイヤホンつけてるからまあ気付かれないだろ。


 じゃ、まず顔からいきますか。

 顔はギャル特有の濃ゆいメイクが一帯を支配しておりわかりずらいが、その下に眠る本来の地表が美人であることは間違いないだろう。


 髪の毛は全体をピンクに染めており、毛先はものすごくクルンクルンしている。

 おそらく暇な時にスプリングのようにして遊ぶのだ。


 そのド派手な頭を支えるは太くも細くもない健康的な首。

 夏場はその滑らかな肌を雫が伝うと想像するとなんかいい。


 さらにその下には、我が国が誇るフジヤマがごとく隆起りゅうきが2つ。

 着崩した制服からチラ見えする豊沃ほうよくな山脈はすれ違う男共の目線をやはり独り占めしている。


 そして、その険しい山を越え無事下山に成功すると待ち受けるのはほどよく引き締まったウエスト。

 上と下の差が激しいため腰あたりのシャツとカーディガンの中がスカスカになってはためいている。


 そしてそのベージュのカーディガンはオーバーサイズであり、さらにスカートは折られすぎてもはやミニスカと呼べるかどうかすら怪しい。

 つまり、スカートはカーディガンに隠れているのだ。

 それにより、ただでさえ強調されていた絶対領域がさらなる進化を遂げる。


 …てか制服でワンピース風の着崩しはありなんですか?

 校則ってそんなに弱いの?


 絶対領域から伸びる脚は一流モデルも羨むしなやかさと絶妙な細さを遺憾なく見せつけている。

 その様は、まるで季節ごとに変わる木々の色彩をその透明な水面に繊細に映し出す穴吹川あなぶきがわのようだ。


 その穴吹川の下流には、なぜかデコられたローファーが燦々さんさんきらめいている。

 背景が横断歩道の白線だと言うのに煌めい…て………え?


 俺は信号を一瞥いちべつする。

 信号には、どうして禍々まがまがしい赤が鋭く光っていた。


「おい!危ない!!」反射的に声が出る。

 だが、あいつはいつの間にかイヤホンをつけていて、俺の声なんか届かない。

 しかも、歩きスマホだ。周囲なんて目に入らないだろう。

 そのままスタスタと歩き続けている。


 ここは交通量が多い通りだ。危険すぎる。

 俺は左右の車道に目をやる。

 手前の車線の車はあいつに気づいてなんとか停まった。

 クラクションが鳴り響いている。

 それでも、あいつはもう横断歩道の中腹まで来ている。


 ど、どうするべきなんだ。

 反対側の車線に目をやると、猛スピードで迫る車が見えた。


 ダッツツ。

 無意識に体が動いた。

 間に合うかどうかはわかっていた。

 ギャルの腕を引く前に、車はすでに彼女に迫っていた───いや、迫ったはずだった。


 突然、車が鋭く右にハンドルを切る。

 ギャルを避けたのだ。

 ただ、その先に俺がいた。

 必死で走った俺がいた。


 逃げ場もなく、車は俺に激突してその勢いのまま反対車線の車にぶつかる。

 車と車の間に挟まれた俺の体が持ちこたえられるはずがない。


 最期に目に映ったのは、み渡る日常の空と俺の血や内臓とが混ざり合っている光景だった。


 おい、笑えないなこれは。

 俺の意識はそこで途切れた。




「ぉウうあ゙あ゙あ゙えエえエェェぇッッ」

 ビヂィャッ。

 俺は吐いたと同時に目を覚ました。

「た、助かった……?」

 視界がボヤけているため、今自分がどこにいるかはわからない。

 だが、病院でないことは確かだ。


「ヴヴゔェぇぁぁェエぇぇ」

 ペシャョッ。

 頭がズキズキする。

 周りの音も聞こえない。

 今はとても立てる状態ではない。

 だからしばらく、俺は寝転がったまま回復を待った。


 少し回復した頃、口内に違和感を覚えた。

 だがそれが何かはわからない。

 咬合こうごうはしっかりできるし、虫歯のように痛いわけではない。

 だが、普段と何かが違う。


 身体を動かせるようになり、手で歯を触ってみる。

 すると、歯の形、特に犬歯の形がおかしいことに気がついた。

「犬歯が…長い……?」

 明らかに他の歯よりも伸びている。

 さらに、それに合わせてしっかり咬合できるように下の歯も調整されている。

「どうなってんだ…」


 そこで俺はやっと身体を起こした。

 映画館から出た直後のような明暗順応が起こる。

 ぼんやりとした視界が晴れていき、自分の置かれた状況を知る。


「だっ、誰だ!?」

 深い森の中、俺は囲まれていた。

 それも人間の形をした何か、6体ほどにだ。

 その内の1匹、俺の正面にいるやつが俺向かって口を開いた。

「グrrルゥあ゙ゥあ゙ゥあ゙あ゙!!!」


 それは、明らかに人間が持つような言語とはかけ離れたものだった。

 青白い肌に赤い目、髪は黒か白で爪は鋭く、そして身体は痩せ細っている。

 そして何より、犬歯が鋭い。

 俺は悪寒を覚えた。


「ssスシシイィぃしャあアアァ!!」

 今度は右のやつが音を発する。

 意思の疎通は不可能だ。

 そしてなりより怖い。

 6匹全部が今にも俺を殺さん勢いだ。


 ダッッッ!!

 ゆえに逃げた。

 暗い木々の隙間を全速力で走った。

 6匹は追いかけてきたが、どこかで体力が尽きたのだろうか途中から見えなくなった。


 森の中、行く宛などもちろんないまま彷徨さまよっていた。

 腹が減った。

 先からグゥゥゥと鳴っては止まない。

 というかそもそもここはどこなんだ。

 たしか俺はギャルを助けようとしたけど俺だけがかれて、んで確実に身体は破裂してた。


 なのになんで生きてるんだ?

 ………わからん。考えるだけ無駄だなこれは。

 そう結論に至って、俺は歩き続けた。


 何時間か歩いたころ、明るい光が見えた。

 近づいて見てみると小さな民家のようだ。

「助かった…!」

 俺は安堵あんどした。

 ドアを見つけて、インターホンを鳴らそうとした。

 けどそれがなかった。

「ん、これは裏口か」

 表に回ろう。

 早く人の温もりを感じたい一心で家の周りを歩く。


 不意に、窓から中が見えた。

 リビングだ。

 机の上にはいくつかの皿が並べられている。

 晩ごはんだろうか。

 そして、そこには1人の屈強な男と、幼い女の子がいた。


 俺は立ち止まり、その女の子に釘付けになった。

『食べろ…食べろ…食べろ…食べろ………』

 本能がそうささやく。

 ギュルルルルルルと腹が先より一層大きな音を出す。


「……は?」

 わけがわからない。

 俺は助けてほしい。

 少し恵んでほしい。

 そのごはんを少しでいいからわけてほしい。

 それはわかっている。

 だが、それを差し置いて、あの少女の血を吸い尽くしたいという衝動が止まない。


 何も理解せぬままそれだけはダメだと自制する。

 しばらくその衝動と戦っていると、少女が俺に気づいた。

 そして直後、恐怖に満ちた表情が俺の目に入り、悲鳴が耳をつんざく。


 何事かと父らしき男は少女に寄り添う。

 そして、男が少女の見ている方、俺を目にする。

 瞬間、机の上の杖を取って俺に向ける。


 そして俺にも聞こえる大きさで詠唱詠唱した。

「シュネルファイルッ!!!!」

 直後、金色に光る矢が部屋の中に現れる。

 矛先ほこさきは俺。


「え?」

 ビュンッッッッ!!!

 俺が理解しない内に、矢が飛んできた。

 矢は窓をガシャンッと貫き、そして俺の右耳をかすめていった。


 これはヤバい……!!

 俺はまた逃げた。

 後ろから聞こえる詠唱と放たれる何本もの光る矢を避けながら、暗闇の森を駆け抜けた。


 いつしか詠唱は聞こえなくなり、矢も飛んでこなくなった。

 俺は疲れ果てていた。

 暗い森の中、再びそこに寝転がる。

「ハァ、ハァ、ハァ……一体…なんなんだよ…」


 俺は、人が食べたくなったのか…?

 いや違う。

 少し違った。

 血を吸いたかった。

 テーブルに並んでる料理には全く目がいかなかった。


 ……な、なんで?

 なんで、俺は血を吸いたいんだ?

 いろいろな疑問に突き当たり思考を放棄しようかと思った時、ふと起きた直後のことを思い出す。


 あの6匹は何だったんだ。

 青白い肌に赤い目、痩せ細った身体に鋭い爪と犬歯。

 思考がいくぶんかましになった今ならわかる。

 あれは吸血鬼だ。

 人間の血を吸い生きるあの。

 アニメやラノベでは低級魔族として常連だったな。


 ………血を、吸う…。

 俺は…吸血鬼なった、のか?

 いやいや、そもそも吸血鬼がこの世にいるわけないしましてや吸血鬼に人間の俺が変態するなんてことまずまず不可能なん────。

 ギュルルルゥ。


「あー腹減ったなぁ。俺、このまま死ぬのかなぁ。こんな死に方ならあのまま事故死がよかったよ…」

 もう、立つ気力も無くなった。

 視界も意識もぼんやりしてきた。

 ふと、あのギャルが思い出される。

「…はは、走馬灯がお前とか……俺…どんだけ薄い人生だったんだよ……」

 けど、案外楽しい人生だったかもな。


 瞬間。

 ザッッッッッ。

 死を覚悟した途端、耳元で足音が聞こえた。

「んぁ……?」

 閉じた目をなんとかこじ開ける。


 そこには、倒れた俺を立って覗き込む人がいた。

「あの…大丈夫ですか?」

 女の人…?

 人………血……血…血!!

 俺の身体で最後の力が振り絞られる。

 何が何だかわからぬまま、俺は起き上がってその女性の首元に噛みつく。

 鋭い犬歯を肌に刺し、そこから出てくる血を飲んだ。

 飲んで飲んで飲んだ。


 しばらくして、体調が回復して思考がクリアになった。

 そして、俺は自分のしていることにやっと気づいた。

 急いで歯を首元から引き抜く。


「…え、ぁ、あぁ、そんな…俺は……」

 ズサッ…。

 嘘だ。

 嘘だ嘘だ嘘だ!!

 やってしまった……!

 俺は、ほんとにきゅ、吸血鬼に…!?


「だ、大丈夫ですか!?!?」

 俺は座り込んでしまった女性の肩を激しく揺らした。

 すると、女性は俯きながら辛そうな声で答えてくれた。

「だ、大丈夫、です…あ、あなたこそ、大丈夫ですか…?」

「…え?お、俺?俺は大丈夫です。いや、ほんとうにごめんなさいっ!ほんとうに!!なんと謝ったらいいかっ…!」

 俺のせいでこの人は死んでしまうかもしれない…!

 俺が殺したのかもしれない…!


「大丈夫です。落ち着いてください。私はこれぐらいじゃ死にませんから。ねっ?」

 女性はやっと顔を上げて俺に微笑む。

 安心させてくれているのがわかる。

 でも、でも、


「でも、血が、血が…!」

「大丈夫です。さっきのあなた方が死にそうでしたよ?ふふ、私の心配ができるなら、もう大丈夫そうですね」

「あ、あの!ほんとに何か俺にできることがあれば、あのっ、ほんとに…!」


 せめてなにかお詫びしないと示しがつかない。

 そんな俺の意図を汲み取ったのか女性は答えてくれた、


「ふふふ、ほんとですか?では、そうですね。私と一緒に暮らしてください」

 温かい笑顔で。

「……え?」

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