街を追い出された弓使いですが、気が付いたら世界を救う英雄になっていた件

あつ犬

第1話追い出される弓使い

瘴気に覆われた、曇天の空の下。

場所は鬱蒼とした森の奥。

雨上がりのその場所は、腐葉土と濡れ葉の匂いでいっぱいになっていた。一歩踏み出すごとに、泥水がはねて身体に掛かる。

足元は泥濘み、分厚い革ブーツを履いていてなお。

……濡れ滲んだ泥の感触が、足裏を通して全身に伝わる。


(探知スキル発動。……《観測手の警鐘Ⅳ》)


瘴気避けのマスクの魔力を確認する。……あと2時間は保つか。

木陰に身を潜めながら、探知スキルを発動させた。

魔力がはじけて周囲に広がる。そうして、脳内にチリン……と軽快な音が響いた。


(………レベルは5から8。規模は15匹前後の群れか。………雨上がりにしては少ないな。雨粒が冷た過ぎて、活性化には向かなかったか)


雨に濡れた草葉の匂いとは違う、どこか獣じみた匂いが。

……血肉の通う生物まがいの匂いが、微かに鼻先でした。


(《穴ぐらスライム》が相手だからな。………上手く核をかないと厄介だ)


幾らかさらに進むと、開けた場所に出た。朽ちた倒木が幾つも転がる、湿った場所。

一面に広がる腐葉土は、魔力を帯びた樹木や、枯れ葉で生みだされている。……異常な発酵によって立ち上る熱気が、事さらに湿り気を増していた。


(………まずは誘き出さないとな)


その倒木の山の先に、人ひとりが入れるかどうかの窪みが見て取れた。

真っ黒な闇だけが広がるその窪み。


『…………』


矢筒に手を伸ばし、矢をつがえる。


(弓兵スキル発動。《跳ね蟋蟀の矢Ⅱ》……!!)


スキルを発動させて、鏃に《跳弾》状態を付与した。

そうして、窪みに向かって矢を穿つ。矢が《跳弾》し、跳ね回る音が響く。岩か何か。

固いものにぶつかり跳ねる小気味の良い音に混じって、柔らかいモノを潰すような音も混じって聞こえた。


そうして。


(出てきたな、スライムども!)


堰を切ったように、薄水色の半透明の塊が。

窪みに溜った雨水を飛沫かせながら、飛び出してくる。

《穴ぐらスライム》の群れ。

粘液状の身体を持つ、下級モンスターの群れだ。

一匹一匹は非常に弱く、時おりエサを求めて畑を荒らす“害獣”。

駆け出しの冒険者たちの“先生役”……としても馴染み深い。


今回、俺がギルドからの駆除依頼を受けたモンスターだ。


(狩猟スキル連続発動!! 《雷鳴鶏の猛禽眼Ⅳ》!! 《軽業師の拡散矢Ⅳ》!!)


一匹一匹は、確かに弱い。

だが、油断して掛かっていい相手ではない。……スライム系のモンスターたちは、脆弱ではあるものの厄介な性質を持つ。

一つは、雨上がりや湿気が多くなると活性化して分裂すること。そうして数が増えてしまう。


(狙うは《核》だ! ……拡散矢で一気に刺し貫く……!!)


二つ目は、《核》を傷つけられない限り再生するという性質だ。

剣で容易く両断でき、戦鎚で叩けばひしゃげて飛び散るが………《核》が無事なら時間と共に再生してしまう。

そうして生き延びたスライムは、耐性を獲得して強力な個体になっていく。

最悪、小規模な村一つなら滅ぼせる程の凶悪で巨大な個体に育つことすらあるのだ。

……ここ最近は、そういった危険な個体……になりかけているスライムもよく見かける。


(確実に仕留める!)


だから《核》を正確に穿ち殺さなくてはいけない。

《拡散状態》を付与した矢を急いで番えて、《雷鳴鶏の猛禽眼Ⅳ》とレベル差補正。……パッシブスキルによる補正とを加えた擬似的な“必中状態”を自身に付与した。


狙うは、こちらに向かって殺到する群れ。

その中心にいる一際に大きな一匹の《穴ぐらスライム》。

この群れのボスだろう。

………自身の呼吸音と大気の流れを併せ………弦を引き絞る。


(…………今だっ!!)


ヒュンッ……と風切り音がして、放った矢は群れを掻き分けるようにして真っ直ぐに。……ただ真っ直ぐに、《穴ぐらスライム》のボスに向かい突進する。

少し固く、しかし柔らかな。

……ゼラチン状の物を突き刺す音が響いて。


『………よし。処理完了だ』


矢を基点とした魔力が弾けて拡散し、他のスライムたちの《核》が穿たれていった。

《穴ぐらスライム》たちは動きを止めて、やがてドロップ・アイテムを。……《スライムの核片》を残して消えていく。


これで依頼は完了だ。

あとは……ギルドに《スライムの核片》を証拠として渡すだけ。


(なるべく早く戻らないとな。……スライム系モンスターのドロップ素材って、腐るのが早いし)


腐敗遅延の魔法が込められた、ドロップ素材専用の革袋。

腰に提げていたそれの口を開いて、《スライムの核片》をしまう。

………革手袋の上からでもわかる、ブヨブヨとした感触が気持ち悪い。 

水をたっぷりと吸って、ぐずぐすに崩れた肉塊のような不快感。


この感触ばかりは、何百匹狩ろうと慣れる気がしない。


『うわぁっ……!? もう腐りだしたのか……!? ……魔力切れか? ……安物の革袋じゃ駄目だなもう』


掌から転がして、革袋に入れた。

……鼻につく厭な臭いが。

腐りだしたモンスターの素材特有の、獣じみて膿んだ血の臭いがする。急いで全部しまい込み、革袋の口を閉じた。

……最悪だ、手袋に臭いが移ったらどうしよう。


『さて……戻るか、ギルドに』


ひとまず、近くにあった水溜りに浸して洗う。

手を何度か振るい滴を切って、俺は街へと戻ることにした。



曇天の空の下を歩き、瘴気溜まりを避けて進むこと1時間。

足腰は丈夫な方だが、連日足元の悪い場所を。

森や荒れ地を駆けずり回ってきた。

……溜まった疲れが抜けきらず、脚はパンパンに腫れている。


《スライムの核片》を渡して報酬を受け取ったら、浴場にでも行って脚を伸ばそうか。


「……ぷっ……はぁー……!! 空気が美味い!!」


瘴気避けのマスクを外して、新鮮な空気を両肺いっぱいに満たして。

……贅沢に息を吐く。


(さすがは聖堂の街リリアンヌだ。……空気は美味いし、広がる空はまっさら。……流れる雲は上質なシルク色ってね)


聖堂の街リリアンヌ。

街の中央部には、瘴気とモンスターの侵入を防ぐ《退魔のオベリスク》が聳え立ち、石畳の往来には都市部の建築様式を真似た、小洒落た家々が立ち並ぶ。

威勢の良い売り子たちの声があちこちでして、脂の乗った肉や魚。パンの芳醇な香りが漂う。


このリリアンヌは、王都や都市部で人気の守護聖女。

聖女リリアが晩年を過ごした街として人気の街だ。


(今日は特に人が多いな。……難民かな……?)


聖女様が奉じた宗派の聖堂が並び、街は巡礼者や観光客で賑わう。

……あるいは、瘴気に追われた近隣の町々や村々の人々が、往来を行き保護を求める。


「すみません、ちょっと通してください! ごめんなさい、通ります!」


人混みを掻き分けながら、俺はギルドを目指す。



「あっ、おかえりなさいエドガーさん!」


木製の大扉に手を掛けて開くと、幼さの残る……けれど透き通るような綺麗な声で名前を呼ばれた。


「お疲れ様です。《穴ぐらスライム》の討伐、ありがとうございました」


ぺこり……という可愛らしい擬音がしそうな所作で彼女は。

リリアンヌの街、冒険者ギルドの看板娘ヘレンだ。歳は俺より5個下で18になる。13の頃からギルドで受付けをやっているから、もう5年目のベテランだ。


「いつも助かってます、エドガーさん!」


エプロンドレス風のギルド制服が似合う、快活な少女。

特別に豊満……というわけではないが、健康的な身体つき。

長く伸ばした、ルビー色の綺麗な髪を後ろ手に縛った……たしか、ポニーテールというのか。

そのポニーテールがよく似合う。

朗らかな彼女の笑顔は、俺たち冒険者の癒しだ。この笑顔を糧にしている冒険者も多い。……かく言う俺もその一人だ。


「……はいこれ、《スライムの核片》。……ごめん、袋の魔力が薄れたせいか臭いがちょっとするかもだけど」


革袋を差し出す。

慣れた手つきで受けとると、ヘレンは革袋の口を開けた。

……思ったよりも臭いはしなかったが、さっきよりは強い腐臭がツン……と鼻に刺さる。


「……だ、大丈夫です、慣れてますから! ……えっと……ひいふうみぃ……18個ですね。となりますと報酬は上乗せで……」


「あはは……ごめん。……それと、魔力の込め直しもお願いしていいかな。瘴気避けのマスクにも」


「お預かりします!……えっと、魔力の込め直しですね。わかりました。………そうなると料金を差し引いて……」


依頼書の写しに、ヘレンはペンを走らせていく。


「報酬は100セトゥリオンになります。………あまりお渡しできなくてすみません」


「いや、ヘレンが謝ることじゃないよ。……それに、《穴ぐらスライム》の駆除ならこれくらいが妥当だって」


渡された報酬は、100セトゥリオン。矢は弓矢の作成スキルで作れるからいいとして。……節約しても2日分の生活費か。


「すみません……。本当はこういう下級モンスターの駆除にも報酬をもう少し多く出せたらなと思うんですけど……」


「………駆け出し冒険者向けの練習も兼ねてるからね。むしろ、受けさせてもらえるだけーーー」 


ありがたいよ……と言い掛けて。

後ろから強く押されて、よろめいてしまった。


「うわぁっ……!? ……な、何するんだよ……!!」


「はんっ、邪魔だエドガー!」

「へへへ、どけってんだよ泥野郎!」

「突っ立ってんじゃねぇよ雑魚が」


振り向くと、他の冒険者たちが何人か立っているのが見える。

依頼を終えたパーティだろうか。

……急に人を突き飛ばして、どういうつもりだ。


「何するんだよ!! うわっ……! は、離せよ……!」


鎧のネック・ガードを掴まれた。

……胸ぐらを掴まれるような形になる。


「あぁん? 雑魚モンスター狩って日銭稼いでるような奴がよぉ」

「いっちょまえに楯突いてんじねぇぞ?」

「ははは、見ろよ! 簡単に突き飛ばされちまってよ、この雑魚が!」


冒険者たちが言うと、周りにいた他の冒険者たちも、笑い声を上げる。

……何なんだよ、さっきから。


「ははは!! そうだそうだ! 言ってやれドエグ!」

「泥まみれのみっともねぇ馬鹿によぉ!」

「スライム野郎のエドガーめ!!」


俺に因縁をつけてきたのは、ドエグ、という冒険者とそのパーティだった。

……手練れの冒険者だということを証しするように、身に纏う鎧は。

レベル40相当の中級モンスターの素材で造られている。背中に背負ったツーハンド・ソードは、上質な金属をふんだんに用いている。


「よぉ、エドガーさんよぉ? これが何かわかるかぁ?」


「………ブロンズ級冒険者の証だろ。それがどうした」


ドエグが見せてきたのは、銅製の“勲章”。

ギルドにおける、冒険者の《等級》を表す印だ。


「そうだ!! ……俺のパーティメンバーも全員ブロンズ級!! レベルは48!! 上級モンスターだろうがパーティが揃えりゃ勝てるっ!! ………だってのによぉ!!」


ドエグの語気が、殊更に強くなる。


「俺たちが。ブロンズ級でぇ!! ……《穴ぐらスライム》だの《痩せゴブリン》だの! 雑魚モンスター狩りで日銭稼いでる若造のてめぇがぁ!! なんでダイヤモンド級なんだよ!! ふざけてんじゃねぇぞ!!」


……ドエグが腹を立てて、俺に因縁をつけてきた理由。

それは、奴と俺の《等級》が気に食わなかったらしい。

ドエグのブロンズ級は、駆け出しより1個上の等級だ。……対して俺はダイヤモンド級。最上位の等級。


「……ドエグって言ったか? 

………あんた、《等級》に関して何か勘違いしてるよ」


ギルドの冒険者たちに与えられる等級は、レベルの高さや実力を表すものではない。

………どれだけ『街』に貢献したかで決まるのだ。

腕がどんなに立とうと、街の為に力を使わないのならギルドは等級を上げはしない。


「俺は街の周辺にいる下級モンスターを狩って、畑に入ってこないようにしたり……行商人の街道にモンスターが巣を作らないように狩ってきたんだ。……それが街への貢献とーーー」


俺はあまり、遠出をしたり上級モンスターを狩ったりなどはしてこなかった。……だからドエグのような冒険者らしい冒険者とは、あまり交流がない。


「ふんっ。《等級》が街への貢献で決まるだぁ? んなこたぁ知ってんだよ!! だからよぉ。わかるか?

………余計に気に食わねぇ!!」


ドエグが叫ぶ。


「何が貢献だ!! そんな弱腰な決まりだからテメェみてぇな下級モンスターしか狩らねぇ雑魚が!! ダイヤモンド等級になれんだろうがよぉ!! どうせレベルも低いんだろ? カスが!!」


……無茶苦茶な暴論だ。

ギルドの《等級》制度の仕組みが気に入らない? だから俺に八つ当たりしているってことか、コイツラは……!?


「だよなぁ? 他のギルドじゃ強さで決まるってのによ」

「雑魚しか狩らねぇ冒険者なんざいらねぇよ!」

「消えろ雑魚狩り野郎!!」


駄目だ、コイツラ。

………まるで話にならない。


「ーーーさっきから聞いてましたげ……何なんですか!!」


少し裏返った、甲高い叫びが。

……いや、叫ぶような言い方でヘレンが言う。


「あ? なんだヘレン!! ……乳臭ぇガキは黙ってな。……へへへ、それとも俺がオトナにしてやろうかぁ? ははははは!!」


「……さっきから雑魚狩りだのなんだのって。……街の人たちを一番困らせてるのは、そういった下級モンスターたちなんです」


ドエグを無視して、ヘレンは言葉を続けた。


「スライム系のモンスターが這い回った畑は……土壌が悪くなって作物が上手く育たなくなるんです。

……ゴブリン系のモンスターは家畜を襲って食べちゃうし。色んな人たちが困っていたんです」


「……あ? 畑? 家畜?」


「だから………エドガーさんはどんなに報酬が安くても……自腹を切ってでも下級モンスターたちを退治して回ってくれているんです。……前ギルドマスターの時からずっと! ……この街の人たちに貢献してくれてるのは、エドガーさんなんです!!」


「ちっ……知るかそんなこと!! 黙れってんだよクソガキ!!」


「いいえ黙りませんっ!! ……それに、エドガーさんのレベルはーーー」


その時だった。

……不意に、ギルドの扉が。蝶番の錆びた、キィキィ言う音を立てながら開く。入ってきたのは2人の男。どちらも、顔には覚えがあった。


「そこまでですよ、ヘレン? 

……ギルドの職員が大声を出してはしたない」


「んっふふふふ……ご機嫌よう、皆様。ここに居られる全ての方に………聖女リリアの加護と祝福がありますように。……あぁっ! 

1人だけ。………不信仰の不届き者には聖女の罰がありますように」


神経質な雰囲気で。

……成金紛いの拝金趣味な服装をした中年の男と。

仰々しい言い方をする、神職のローブを纏った、顔立ちの良い男が入ってくる。……怖気のしそうなほどの美貌の男だ。歳は目尻の皺を見るに30の後半だろうか。


ギルドマスターと《聖女礼拝派》の大教父レメク。

この2人がリリアンヌの街を……いわば管理し運営している。


「おぉ……大教父様!」

「不信仰者? ははは、違ぇねぇ!」

「雑魚狩りして回ってるってことはよぉ……聖女リリアの……おっと!……リリア様の御力を信じてねぇってことだよなぁ?」


特に、大教父様は。

……このレメクという男は、リリアンヌの街の住民からの尊敬を集めている。


「信仰の子らに祝福がありますように………。んっふふふ……さて、エドガー殿。貴方はいつまで信仰を持たず……聖女リリア様の奇跡を……軽んじるのです?」


2、3年くらい前のこと。

《退魔のオベリスク》を建てたのはこのレメクを教父とした、《聖女礼拝派》だった。

十数年前に興ったこの宗派は、ふらりと街々に現れては『聖女リリアの加護』と言って、聖堂とオベリスクを建てて回っている。


「軽んじているつもりはありません、教父様。……聖女様の御力は、俺も信じております」


「ではなぜモンスター狩りを? ……おかしいですねぇ? 尊き聖女様! 死してなお民を護り慈しむその御力を。 ……信じているならばそのような下らないモンスター狩りなど。……しない筈では?」


「……仰っていることがわかりかねます」


演技がかった仕草でローブを翻して、レメクが一歩前に出る。

周りの冒険者たちを一瞥し、口を開いた。


「わかりませんか? 《退魔のオベリスク》により街にはモンスターは決して入ってこない。……それなのに下級モンスター狩りばかりをしている貴方は……信仰のない貴方は!

……この聖なる街に相応しくないのですよ」


流し目で、レメクがギルドマスターを見やる。口元に蓄えた髭を撫でて、ギルドマスターがニヤリと笑った。……なるほど、そういうことか。


「えー……エドガーくん?

君は街に貢献してきたが……それはもはや過去の話なのだよ。……なぜこの街が……。リリアンヌが興って以来の栄華を極めつつあるか……わかるかね?」


「どういう……?」


「では端的に言おう! そこにいるドエグくんのようなぁ……えー……強力なモンスターを狩れる冒険者たち。彼らのもたらす上質で希少な素材のお陰で街には金が入る!

……むろん、《退魔のオベリスク》の御力を求めた人々の流入もあるがね」


下級モンスターが落とすドロップ素材は、二束三文の金にしか確かにならない。……それは事実だ。

だから駆け出しの冒険者たちも下級モンスター関連の依頼を嫌い。


……レベルの高い冒険者たちの“子飼い”になってお溢れを貰う。


「街への貢献という面では、君はもはや相応しくない! ……街の。

ひいてはギルドの顔たるダイヤモンド級には相応しくないのだよ! ……君のような貧相な軽鎧を着て、泥に塗れて下級モンスターを狩るようなドブネズミにはねぇ? 街の景観を乱し、聖堂の街に相応しくない不信心!!………まったくもって邪魔だ君は!!」


「それで……俺にどうしろと?」


……鼻で笑い、ギルドマスターは言う。


「レメク様、及び他の街役員たちとの話し合いの結果……ギルドのシステムを他のギルド同様、能力制にする。……そこにいるドエグやその他の冒険者たちにダイヤモンド等級を与え………君には……ふむ。選ばせてやろう」


選ぶ?

……俺に何を選ばせるつもりなのか。


「下級モンスター狩りを完全にやめ……街の金になるモンスターを狩れ。……断るか、言うことを聞くか。選びたまえエドガーくん」


俺の答えは決まっている。

そんなのは。


「お断りします」


……お断りだ。


「………ほぅ? エドガーくん、断ると言ったのかね?」


オベリスクの力は強大だ。

建てられて以来、街にモンスターが入ってきた試しはない。

……だが、街の外は別だ。

街道を通る人々が襲われることもある。


……そうした危険を減らすには、やはり地道に狩るしかない。

ダイヤモンド等級から降格させたいなら好きにしろ。


「そうです。たとえ等級を剥奪されようとも、俺はこの生き方を変えるつもりはありません」


「では仕方がないなぁ、エドガーくん。君を追放する。むろん、付近の村にも立ち入り禁止だ。君が来たら追い返すよう通達しておくよ、ククク……!」


ギルドマスターの言葉に、俺は自分の耳を疑った。


「………追放……!? 街から出て行けと……?」


街からの追放。

……今後、街への立ち入りを一切禁止される。


それはつまり。


「そうだ。せっかくのチャンスをふいにして。……まぁ、頑張って生き延びたまえよ! はぁっはっはっ!!」


ーーー死刑を宣告されるも同義だった。

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