ぱっと消えて

鈴乱

第1話


ライトが消える。


と同時に舞台上の私も消える。



誰も不思議に思わない。


誰もが、そういうものだと思っているから。


観客たちは舞台の違和感も不自然さにも気づかずに、興奮だけを持ち帰る。


私は、観客たちが会場を完全に出て行くまで、舞台に留まり頭を下げる。


誰にも気づかれない、私の感謝の伝え方。

真っ暗な中で、誰にも気づかれなくても、ただただ、頭を下げる。


それが、私なりのお礼だから。


私を、舞台を、見に来てくれた皆への、お礼。


届かなくてもいい。気づかなくてもいい。


ただ、私がそうしたいから、そうしているだけ。



今日は特に念入りに。


この顔を上げた時、そこに今までの私はいないから。


新しい私が、ここに立っているはずだから。


―――新しい、「俺」という私が。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぱっと消えて 鈴乱 @sorazome

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る