第54話 (12/12) さくらとの夕食

 食事が来てからも話は続く。


「明日も早い電車で行けばいいよね。翔真先生の予言を信じて、用心に越したことはないね」


「うん。たのむよ。今日と同じパターンで行けば大丈夫でしょ。自分の予言が当たらないように祈っているよ。事故は無いに越したことはないさ」


「何かあっても最善を尽くそうね」

「そうしよう」


 食事は終盤となった。


「翔真はさ、大学院で何やるの? やっぱり地質関係?」

「そう。いい先生がいるんだ。その人の研究室でこの辺りの地質の研究をやりたい」


「このへんって何か特別だったりするの?」

「うーん。そんなに特別でもないけど、大昔の地形とかで不明な点があって、調べたいことが山ほどある」


「そうなんだ。こっちに来たら楽しみだね。会いやすいしね」

「さくらはの方は仕事は頑張っているけど、プライベートは?」


「仕事人間よ。休みとかも自己啓発じゃないけど色々情報収集しているから、遊ぶ時間はほとんど無いわ。でもその情報収集であちこち行っているから楽しいよ」


「それは良かった。えーと、友達関係は?」

「んー? 男友達のこと? 彼氏がいるかって聞きたいの?」


「いや別に。そんなの気にしていないよ」

「本当? 気にしなさいよ。じゃ教えなーい」

「ったく」


「翔真の方はどうなのよ? 彼女はできた? もしいるなら遠距離になっちゃうよ?」

「んなもん、いるわけねーだろ。レポート作ったり、論文のデータ集めるのに必死なんだから」


 しばらく小競り合いをした後、さくらが言った。


「ねえ、昔ディズニーランドに連れて行ってくれたよね」

「ああ、そうだね。どちらかと言えば俺が連れられて行ったような感じだったけど」


「それからオーストラリアにも連れて行ってくれたよね。バーチャルだけど」

「バーチャルだったね」


「あのひらひら飛んでいたモルフォの映像、強烈だったよ。今でも目を瞑ると鮮明に浮かんでくるんだ」

「あの蝶、本当にきれいだよね」

「夕焼け空もきれいだったなー」


 さくらは目を瞑って思い出に浸った。


「翔真さ、あの時何か私に言ったよね? 覚えている?」


 自分の精一杯の告白を忘れる訳がない。でも全く恥ずかしい。


「も、もちろん」


 翔真の顔が少し赤くなった。


「昔は弟か甥っ子ぐらいにしか見えなかったのに、一人で外国行って、あんなセリフ吐くんだもんね。一人前になったね」


「未だに学生だから、一人前とは言えないけど」

「確かお互い就職してから相手がいなかったら何とか、って言ったよね」


 翔真は真っ赤になった。


「翔真はまだ就職してないから、まだ早いかもしれないけど、一応言っておくと今私はフリーだよ。この先どうなるかはわからないけどね」


 翔真はそのあとの話はあまりよく覚えていない。食事を終え車でマンションに着いてから別れ際に話したことだけは覚えている。


「というわけで、翔真。明日一日乗り切って、土曜日、ハイキング行こうね!」


「ハイキングじゃなくてトレッキングだよ。それより明日の朝も早い電車だよ! 忘れずにね。またラインするから。次は土曜日に高原の頂上で会おう」


「はーい。バイバイ」


 翔真はホテルに帰ると、不安と期待と色々複雑な感情で、頭がどうにかなってしまいそうな感じになった。ビールを一缶だけ飲んで気持ちを落ち着かせた。


 とにかく重要なのは、まず明日の朝だ。問題は無いと思うけど油断せずに乗り切ろう。 翔真は自分に言い聞かせてからシャワーを浴びた。


 それでも興奮は冷めやらず眠りについたのは零時を過ぎてからだった。疲れが溜まっており、すぐに熟睡した。

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