第24話 (10/5) チュートリアル

「それと」見習いは言った。


「私は地上の時間のコントロールが少しだけできます。例えば時間を一時停止できます。ただし急な一時停止は短い時間しか停止できません」


 サラが訊ねる。


「時間も止められるんですか。でもそうやって色々干渉しても大丈夫なんですか? 大げさにいうと歴史が変わってしまいませんか?」


「はい、変わります。本人が関わる出来事が変わることはもちろん、地上のあらゆる事象にも微妙に影響します。他の天界チームも同様に世界中で活動していますので干渉しあって人生の出来事や人間関係が前回とは大きく異なるケースもあります。あと事故や自然現象なんかも変化しますので気を付けてくださいね」


「うわ。ちょっと予測不可能だね」


 ショウがコメント。


「はい。展開は無限のパターンがあります。かなり先のことは読めませんが、随時私のシミュレータを使えば、もうすぐ起きる目先のことはそこそこの精度で予測できます」


「それは便利だ」


「あ、ちなみに同じ場面をやり直したり時間を遡ったりすることはできませんのでご注意ください。原則一回限りのリトライです」


「一回限りね」


 見習いは、はっと思いついて端末を少し操作して追加した。


「あのですね。マスターからメールで注意されたんですけど、いつも言い忘れることがありまして」


「何ですか?」


「オリジナルの展開からは変わるのですが、どうもオリジナルにあった出来事とか人物とかは、形や時期を変えてでも、また現れようとするみたいです。例えばあの噴火はやはり同じ様に起きるか、少なくとも別の災害か事故の形でさくらさんと翔真さん達に襲い掛かると思います」


「運命は逃げられないのか」


「いえいえ、不遇な運命を避ける為に私達、守護霊が存在しているんですよ。私達次第です」


 見習いは続ける。


「とりあえずご注意いただきたいのは、さくらさんのご病気や、翔真さんの努力不足、体力不足です。根気よくサポートしていかないと結局オリジナルと同じような展開になりがちです。サポートが完璧でも繰り返されることがあります」


「見習いさん、努力不足とはちょっときついですね」


 ショウがぼやく。


「自業自得と言うやつです。さらには、オリジナルには無かった新たな出来事が良く発生しますのでご注意ください」


「それは避けようが無いわね。都度対応しましょう」

 サラが納得した。


「地道に本人達にあきらめさせずに努力をさせれば、確実に1回目の人生よりいい人生になりますのでご安心ください。なお私はまだ見習いの身で、指導者としては中級レベルですので、至らない点が多々あると思いますが精一杯やらせていただきます。場合によってはマスターに相談してベストな対応をさせていただきますのでよろしくお願いします」


「見習いさん、最後にもう一つ質問です」

 サラが聞いた。


「生前の私、さくらの人生が変わるとするじゃないですか。そうすると私達って消えちゃったりしないんですか?」


「それは大丈夫です。一度霊魂になると、瞬間的に消えるようなことはありません。百年から二百年くらいの長い時間をかけて存在が徐々に薄くなって消滅していきます。時間を移動しようが、歴史が変わろうが、そこは変わりませんのでご安心してください」


「そうですか。わかりました。ありがとうございます」



 ◇ ◇ ◇



 サラ達が概略を理解したところで見習いが端末を少し操作した。


「さて、早速ですが少し練習しましょうか? 練習と言ってもこれも本番の一部で一度きりのリテイクになりますのでご注意を。通常は誕生から順に再生してサポートしていくんですが、今回は最初だけ特別に人生の途中の一場面を再生します。小学生の時の公園のシーンです。サラさん覚えていらっしゃいますか?」


 ふと下の空間に大きな穴が開き、公園で遊ぶ子供の頃の自分達の姿が上から見えた。さくらが男の子にからかわれている。


 見習いが言う。


「どれかの子に意識を集中してみてください。心の声、考えていることがわかりますよ」


 サラが一人の男の子を見つめて耳を澄ますと、確かにその男の子の声が頭の中に直接聞こえてきた。


(さくらはからかいがいがあるな。でも陽人(はると)はやりすぎだ)


 ――本当だ。考えていることがわかる。


「ここから、どうすればいいんですか? 見習いさん」

「まずフェリンを呼んでください」

「えーと、フェリン!」


 フェリンがふわふわと飛んできた。

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