第12話 (9/7) 坂本翔真

 それから数日が過ぎた。


 さくらが病室でテレビを見ていると、不穏なニュースが流れてきた。かなり離れているが、同じ県内の山岳地帯で群発地震が増えているらしい。また山体の変形が複数のところで見られるという。過去に噴火をしたという火山は近くにあるが、ここ数百年は静かにしている。


 専門家によると今回の現象は今まで起きたことがなく、しかも広範囲で生じているとのことだった。ただしそれが何を意味するかはわからず、観光業への影響を心配してか、噴火の可能性は高くないだろうと根拠なく話す人もいた。


 さくらはかえでに電話で相談した。

「群発地震のニュース見たんだけど、どう思う? 来週のトレッキング、どうしようか?」


 かえでは答えた。

「県内の北側の山には特に規制はかかっていないし、どり高原は地震源の山岳地帯からかなり離れているから大丈夫だと思う。だけど、本当なら変な現象が収まるまでは自重した方がいいかも」


「どれくらいで収まるのかなあ? あまり長いと冬になっちゃうし、体のこともあるから遅くなるのは心配」


「いつ収まるかは専門家でもわからないんじゃないかな。今のところは予定通りにしておいて、ぎりぎりまで待って判断しようか?」


「そうだね。二日くらい前に決めようね。連絡する」


 さくらが電話を切ろうとするとかえでが言った。


「あ、待って。そうだしょうに聞いてみる? 彼、確か今あの山岳地帯で、地質調査の手伝いをしている筈。もしかしたら今回の件も何か知っているかもしれない」


「へー、翔真が? 知らなかった。じゃあ聞いてみて」


 坂本翔真は一人っ子で、かえで達と同じ住宅地で育ち、幼馴染として小さい頃からよく一緒に遊んでいた。


 子供の頃は体が少し小さく、年上が多かった近所の子供達の間では、遊ぶ時も他の子に付いていくのに苦労していた翔真だったが、いつも八神家の姉妹に引っ張ってもらっていた。


 特に下のさくらは歳が近いこともあって翔真と仲が良かった。翔真が中学生、高校生になっても二人は声をかけていたが、思春期の恥ずかしさからか翔真の方から話しかけることは徐々に減っていった。


 不愛想な反応が多くなった翔真であったが、内心では相変わらず二人を姉のように慕っていた。


 さくらとは子供の頃から仲が良かったし、見かけも可愛いと感じていたので、幼馴染ということを差し引いても、顔見知りの女の子の中では一番好きだった。


 さらに成長するとさくらの顔立ちはなお整ってきて、少しずつ近寄りがたい感じになってきた。彼女が同級生の男子、すなわち翔真より一年上の男子と一緒に行動しているところを見た時には、羨ましさでよく歯ぎしりをしたものである。


 そんな時には、昔からのさくらを知っているのは俺なんだぞ、と言うあまり意味の無い優位差を自分に言い聞かせてさくらを想い続けた。


 高校二年生の頃からは、時にそれとなく気ぶりがある様子をして、さくらに視線を送ったり、意味なくなるべく近づいてみたりもした。


 しかし口に出さない翔真の気持ちをさくらが感じることはなく、相変わらず弟扱いしかしてくれなかった。

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