第9話 (9/3) 子宮頸がん
数年が経過し子育てが落ち着いてきた頃、さくらにまた違うトラブルが起きた。さらなる体の異変だった。月経とは異なる不規則な出血が見られ始めたのだった。
痛みも出てきた。インターネットで調べると、さくらを大きな不安が襲ってきた。これは単なる炎症かもしれないが、ああ、もしかしたら重い病気かもしれない。
しばらく様子を見ていたが症状が一向に収まらないので、仕方なく病院で受診した。幾度もの検査を受けた。
その結果、最終的に想像以上の悪い事実が判明した。子宮頸がんだった。それもある程度進行しているらしかった。(どうして私が……)
何度かの追加の検査と治療を経て入院と子宮とその周辺を切除する手術が決まった。
卓也に入院する旨を告げた時の、彼の第一声はなんとまさかの「まいったな。しばらく家の事やらなければいけなくなるのか」だった。
入院する妻への気遣いや励ましの言葉が一切ないまま、いきなり家事の心配をするとは…… ずっと苦しい結婚生活を続けてきたさくらだったが、この期に及んでのこの卓也の言葉にはさすがに堪忍袋の緒が切れた。
さくらは即離婚を決めた。
◇ ◇ ◇
さくらは嫌な過去を一旦忘れ、現実に戻った。
病院前の通りはぽつぽつと人が行き来して落ち着いてきた。通勤時間が過ぎ、スーツや制服姿の人はあまり見なくなった。
さくらは気分転換に病室から出て、点滴棒を相棒に休憩スペースに行ってみた。広い空間で中庭を見下ろすことができリラックスできる。
入院患者なのか、お見舞いか、病院関係者なのかは分からないが数人がまばらに座って休んでいた。壁のモニターにはテレビ番組が映っているが誰も見ていない。
さくらは他の人からなるべく離れた席に座った。下腹部に痛みが出てきた。
自分が退院した後に後遺症は残らないのか、がんは完治して再発しないのか、生活はうまくやっていけるのか? 自分と娘の運命を案じて少し沈んだ表情で座っていた。
不覚にも涙が流れだしたときに、たまたま病院スタッフの男の人が休憩所に入って来た。泣いている所を見られてしまった。
「どうかされましたか? 大丈夫ですか?」
年配の病院スタッフはさくらに訊いた。
「いえ、何でもありません。大丈夫……」
さくらは急いで涙を拭こうとして点滴に手を引っかけてしまった。そのスタッフは慌ててさくらの点滴棒を抑えた。
「すみません。すみません」
さくらが謝る。
スタッフは、さくらを見つめて少し思案してから言った。
「もし良ければ、少しだけお話しさせていただいてもよろしいですか?」
「はあ、はい……」
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