第2話 (8/27) 夢の中のマスターと”見習い”さん 

 ――さくらの夢は続く


 翔真しょうまは自分が浮いたことに目を丸くしながらも、さくらの真似をしてさらに上昇しようともがいていた。 


 一方のさくらはさらに高く、木々の上の高さまで上昇することに成功し、友達をはるか上から見降ろしていた。


 やがて翔真も、さくらの半分くらいの高さまで昇ってきた。ふらついてはいたが、さくらと目が合うと翔真は満面の笑みを浮かべた。


「下を見てごらんよ。みんなが手を振っているよ」

「本当だ。さくらと僕だけ浮いているね」


 さくらの言葉に翔真が答えた。さくらは下を見ていて不思議なことに気が付いた。下で手を振っている子供達の中にも何故か私自身と翔真がいる。


「え、どういうこと? どうして私がもう一人いるの?」


 地上のさくらと翔真は仲良く並んで笑顔でこちらを見上げていた。


「翔真、早く来なよ」


 さくらは翔真のところまですーっと降りて行って彼の腕を取ると、再び高いところまで上昇して行った。ある高さまで来てふと気が付くと、自分も翔真も大人の姿に変わっていた。


 二人が空中でお互いの姿を見合って不思議に思っていると、突然上空から二人の人間が降りてきて声をかけてきた。一人は杖を持った年配の男性。


「やあサラさん、しばらくぶりだね。ショウ君はトレーニング順調だったかな?」

(サラ? 私の事? 翔真のこともショウって呼んだ。誰この人?)


 さくらには見覚えが無いおじさんだ。穏やかな感じで、思わず「先生」と呼びたくたくなるような感じ。


 もう一人は若い女性。私と同じ年くらいかな?


「お久しぶりです。サラさん、ショウさん。また会えましたね。私やっとマスターになれましたよ」


 空から降りてきた女性は端末をわきに抱え、とびっきりの笑顔で言った。


 (この人も私のことをサラって呼ぶ。それからマスターって何のことだろう。この二人何者?)


 不思議に思っていると、女性の顔が真剣な表情に変わりこう言った。


「サラさん、早速ですがが襲ってきますよ。地上の子供達を救うために戦いましょう。この四人で!」


 え、って何? 戦うってどういう事?

 するとブウォーンと騒がしい音が聞こえてきた。音のする方向に目を向けると、たくさんの黒い塊がこちらに飛んでくるのが見えた。


「あれは何!?」


 さくらは思わず若い女性に訊いた。


「はい。がん細胞です。サラさん狙いですが、子供達にも攻撃してくるようです」

「がん細胞ですって?」


 おじさんが杖から何か稲妻のようなものを出して、次々に飛んでくる塊を撃ち始めて、同時に号令をかけた。


「さあ皆、子供達を守るぞ。見習い、そちらの侵攻を食い止めろ」

「マスター、私はもう見習いじゃありませんよ。見ていてください」


 若い女性は下の方の塊に向かって手から何か光るものを放出し、塊が子供たちに近づくのを阻止した。


「よしいいぞ。上達したな見習い」


 マスターと呼ばれているおじさんはさくらの方を向くと言った。


「サラさん、あなたは子供達を避難させてください」

「はい! マスター」


 さくらが答えた。


 ついにさくらは思い出した! 彼らがマスター、見習いと呼んでいた知り合いだったことを。(夢の中のかりそめの記憶だが……)


 さくらは十人いる子供達のうち、さくらと翔真を除いた八人の子供を念力のような力で持ち上げて、黒い塊から逃れる方向にゆっくり運び始めた。そして翔真に叫んだ。


翔真しょうま! 子供の私達を頼んだ!」

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