世界の鳥の旅立ちと終わりの始まり

ゆうき±

第一章 出会いと新たな旅路 レイル視点

第1話 出会い


 足元に転がっている骸は私利私欲で私腹を肥やした派閥の筆頭だ。

 死んで当然、領地の国民は重い重税から解放されて泣いて喜ぶだろう。

 うん?

 近くに気配がして視線を向けると、銀髪の同い年くらいの女の子がこっちを目を見開きこっちを見ていた。

 関係者か。

 叫ぶかなと思ってみていると、僕の下で転がっている骸を見ると彼女は笑っていた。

 

「何がおかしい?」

 

 人を目の前で殺され、嬉しそうに笑うなんてどう考えてもおかしい。

 本来なら罵詈雑言や仇を取るために襲い掛かってくるだろう。

 何だ、この違和感……恐怖で壊れたとはちがうな。

 

「……あは、やっと死んでくれた」


 ……やっと?

 彼女は嬉しそうに声高らかに笑っている。

 よく見ると、彼女の容姿はこの二人に似ても似つかない程美しかった。

 のそりのそりと笑いながらこちらに歩んでくる彼女から離れる。

 こういう狂喜的な奴は何をするかわからないからだ。

 

「計画が台無しだなぁ~、うんとっても台無しだぁ~」


 少女は2人の前に立つと、男の腕を足で踏みつけている。

 

「あはは、お前は本当に嫌い。 その腕も足も胴体も顔も血筋も存在も何もかも嫌い!!」


 そう言って勢いよく踏み続けると骨が砕ける音が響く。 

 よほど恨みがあったのだろう。

 死んで尚、こんな目に合うなんてな。

 可哀想だとは思わない。

 それほどの事をこいつはしてきたのだから、因果応報というものだ。


「キモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモいキモい!!


 そう言って踏んだり蹴ったりして男は見るに堪えない姿になる。

 

「満足したか?」


 僕は彼女に問いかけると、彼女は深呼吸をして息を整えるとこちらに笑顔を向けてくる。

 血に染まった綺麗な銀髪に笑顔を向ける彼女は壊れているとしか思えなかった。


「えぇ、ただ欲を言えば私に引導を渡してほしかったわ」


 よほど恨まれていたのだろう。

 普通、人というのは枷というものがある。

 痛めつけるのならなんてことはないが、死んだ人間を蹴ったり骨を踏み抜いたりは出来ない。

 よほど追いつめられない限り、ここまで狂ったりしないのだ。 

 

「ねぇ、一ついいかしら?」

「何かな?」  

「誰からの依頼か聞いてもよろしいかしら?」

「依頼主は、。 僕が殺した」


 依頼主は元々殺す予定の外道だ。

 外道は外道を恨むと言うが、全くその通りだ。

 どいつもこいつも自分の利権の優劣を決め、尚且つ民を苦しめるのだから。

 そう言うと彼女はゆっくりと歩いてくる。

 先程の狂気じみた笑みとは違い、親しみやすく上品な出立でこちらに向かってくる。

 彼女は僕の顔を覗き込むように見てくる。

 暗くてあまり見えなかったっが、何かを見透かすような雪のように白くそして綺麗な瞳をしていた。

 

「……よし、決めました」

「決めたとは?」

「私、貴方についていきますわ」

「……は?」


 意味が解らない。

 人を殺すような人間についていきたいと言う奴はそうそういない。

 いるとすれば生きるか死ぬかの瀬戸際の人間位だ。

 

「駄目でしょうか?」

「駄目というか、何で?」


 正直な話、この子の立ち居振る舞いからして貴族だ。

 加えて今回殺したのはあくまで二人。

 次期当主であるレアンは対象から外している。

 まだ何も悪事に手を染めているという証拠が揃っていないからだ。

 

「正直、この家はもう駄目です。 当主様が死んで次期当主のレアンでは恐らくこの家は没落します」


 すげえ言われよう。


「なら君が支えてあげなよ」


 僕の言葉に彼女の綺麗な瞳から光が消える。

 先程の狂気を彷彿とさせる。


「支える? 私が? あの根暗で陰湿で傲慢な奴を? なんで?」


 よほど嫌なんだなぁ。

 

「その、なんで僕なんだ?」


 正直、僕の様な裏稼業より家がつぶれるとわかっているのなら出ていい人を見つければいい。

 彼女の美貌なら引く手あまただろう。


「なんとなくかな」

「なんとなく?」

「なんていうか、貴方の所へ行けば幸せになれるようなそんな気がするの」


 その気は間違っている。

 僕と一緒に居れば確実に彼女は不幸になる。

 人を殺し血に染まった僕に幸せになるなんてあるはずがない。


「ねぇ、本当に駄目? こう言っちゃなんだけど私可愛いよ?」


 本当にその通りだが、普通自分で言うか?

 普段なら鼻につくが、彼女を見ると誰しも思ってしまう程の可愛さなので不思議と嫌味に感じない。


「私を連れて歩くだけで羨望の眼差しだよ?」


(まぁ、そうだろうな)

 この子のような可愛い女の子を連れて歩けばそりゃ世の男性諸君は嫉妬の嵐だろう。

 僕だって相手の立場なら羨ましいと思ってしまう。

(っというかさっきからこの子近いな)

 推しが強いというかなんというかとにかくグイグイ来るのだ。

  

「ちょっと近い」

「ん? あぁ、ごめんなさい」


 無意識だったのか、僕がそう言うと彼女は離れていく。

 今の内に逃げる事は可能なのだが、なんでだろう、彼女を置いていってはいけないような気がした。

 

「本当に外に出たい?」

「……うん、私は外の世界に行って幸せに暮らしたい」

  

 こうはっきりと言われれば仕方ない。

 外に出て職が出来るまで彼女の面倒を見るか。

(こういうの、本当はいけないんだけどなぁ~)

 彼女は僕にとって枷だ。

 何に対してかというわけではなく、人と行動をする場合行動を制限される。

 枷が出来るとどうしても身動きが取りにくくなる、それは誰しも例外ではない。

 

「まぁ、貴方がここで断ったら近いうちに私は死にますが」

「誰かに殺されるって事か?」

「いえ、私自ら命を絶ちます」


 綺麗な瞳が一瞬で曇る。

 絶望というより諦めたような瞳だった。 


「別に貴方に断られたからというわけではなく、ここに留まって絶望しながら死んでいくのなら貴方が行った後、その窓から命を絶ちます」


 (……重いな)

 ここで断ったら、この子は恐らく自身が発した通り自ら命を絶つだろう。

 どうしてかそんな気がする。

 人生に絶望しているようなどこか昔の自分を見ているような感覚だ。 

 


 師匠の顔と言葉が目に浮かぶ。

 

「諦めるのは簡単だ、だが抗うのは遅れれば遅れるほど取り返しのつかない物になるんだ。 だから諦めるな、その命尽きるまで」


 薄暗い場所から師匠であるクレインが僕に手を差し伸べてきたのは今でも覚えている。

(これを思い出すという事は、「彼女を助けろ」とそういう事なんだろ? 師匠) 

 僕が助けたように助けろと師匠が言っているようなそんな気がするのだ。


「一つ、条件がある」

「何? 夜のお相手?」

「誰もそんなことは言ってない」

「でしたら夜のご奉仕の方?」

「……一旦黙ろうか」

 

(話が進まん、っというか夜のお相手? え?)

 

「はい」


 彼女はそう言うと両手で口元を抑える。

 そうしていると、彼女は苦しそうにしていた。


「呼吸はしようか」

「……はぁ……はぁ……」


(なんなんだこの子は)

 言葉を止めれば死ぬ呪いでもかかっているのか?


「落ち着いたか?」

「は、はい」

「こほん、それじゃ僕から条件が一つ、これから簡単に命を絶とうとしない事、どれだけこの世に絶望しようと生き残るために抗う事、これが条件だ」

「……へ? それだけ?」


 彼女は驚いたように目を見開き、そう言った。

 何もおかしなことは言ってないはずだ。

 

「うん、僕と一緒に来るのならそれが条件だ」

「他には? 何かないの?」

「あぁ、特にはないよ」

「私を愛でたいとか、その夜の相手をしろとかそういうのはないの!?」


 ぐぃっと不満そうにしながら距離を詰めてきた。

 何を言ってるのだろうこの子は。


「私は可愛いわ」

「うん」

 

(直球だな)

 

「世の男性から引く手あまたの美貌や身体を持ってる」

「うん」

「なのに手を出さないとはどういうこと!?」

「君こそ、恥とか無いの?」

「貴方こそ、据え膳を捨てる男の恥じゃない!?」


(確かどこかの国で流行った言葉だったか? でもそんな言葉だったか?)


「二つにしよう、今後そういう発言は外でしない事」

「そういう発言とは?」

「人を誘惑するような言葉、例えば夜の相手とかご奉仕とか」


 悪い意味で目立つのはごめんだ。

 こんな可愛い子にそんな言葉を発されれば一緒に居る僕にいつ嫉妬や憎悪、殺意など持たれるかわかったもんじゃない。

 出来るだけ敵を増やしたくない。

 

「……仕方ない、その条件をのまないと私を連れてってくれないのでしょう? なら飲むしかないわ」


 なんでそっちが仕方なくしてやってる感を出してるのだろうか?

 彼女はそう言って深く溜息を吐くと、こちらに手を差し出す。

 

「短剣、貸してくださる?」

 

 彼女はそう言うが、まだ彼女を信用は出来ていない。

 なので少し下がる。

 

「なんで下がるの?」

「少し離れようか」

「なんで?」

「まだ親しくない人に近くで刃物を渡すと思う?」

「あぁ、そういう事ね……このくらいでいい?」


 そう言って彼女は距離を取ったのを確認すると僕は手持ちの苦無を渡す。

 

「あら、短剣だと思ったけど、面白い形ね」


 そう言って彼女は膝から下にある苦無でドレスを引き裂く。

 何だろう、この子思い切りがいいな。

 何かを決めるのも即答だし、思い切りがいいのは戦う上でも大切な事だ。

 

「ありがと、返すわ」


 そう言って彼女は苦無を足元に投げ返してくるので僕は受け取りしまうのを確認するとこちらに近づいてくる。

 素足か。

 ヒールを脱ぎ捨てて彼女はこちらに歩いて来ていた。

 その状態で外に出るのはきついだろう。

 

「ちょっと待ってろ」


(中に確か、伸縮性の靴が……あった)


 一応燃えたり千切れたりした時用に持ってきておいてよかった。

 

「僕ので良かったら使うか?」

「え?」

「裸足だろ、それじゃ痛いだろ?」

「……ありがと」

「ついでにこれに着替えてくれ、ドレスは流石に目立つ」

「だったら、私の部屋に服があるから私の部屋に行ってもいいかしら?」

「言っておくが派手なのは駄目だよ」

「大丈夫、お忍びで外に出る時用の服だから大丈夫だよ」

「そっか、なら少しだけ支度をして出よう」


 そうして彼女の部屋の前で待つことにしたのだが……。



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