第49話

「な、何の事? 私そんな名前の人知らないなぁ……」


 知らないふりをしようとするが、瑞希はお付きの生徒から紙を受け取った。


「とぼけても無駄ですよ? こちらにはたくさんの情報がありますから……」


 そう言いながら瑞希は、また高笑いをする。


 これ以上白を切るのは、無駄だと思ったのか、亮を守るように恵梨香が前に出た。


「ちなみに、その情報どこから手に入れたのですか?」

「私の交友関係を持ってすれば、このような情報を手に入れるのはたやすいですよ」


 なるほど、おそらくお見舞いへ行ったときに、あの病院の関係者の生徒を連れて、亮達兄弟の情報を何かしらの方法で聞きだしたのだろう。


 お金持ちならではの方法で、これには負けを認めるしかない。


「黙ってほしければ、この勝負を受けてもらいましょうか……」


 このままでは、瑞希のせいで、今までの努力が水の泡となってしまう。


 後ろを向いて、恵梨香は亮の方を向くと、亮は首を縦に振って合図をする。


「わかりました。ですが、流石に期末テストの勝負では相手にならないですし、瑞稀様は学年でもTOP10に入る実力ではありますけど、流石の亮様には到底及ばないですよ」


 そう言って、こちらからも脅しを掛けようとすると、再び瑞希は高笑いを始めた。


「期末テストで勝負するつもりはありませんよ?」

「じゃあ、何で勝負をするんですか?」

「テスト前に行われるサロン同士の社交パーティーがあります。そこで私達と社交ダンスで戦ってもらいます」

「社交ダンス……」


 社交パーティが開かれていることは知ってはいたが、政治的な事に巻き込まれるのがいやで、参加はしたことがない。


 それにここにいる3人は社交ダンスの経験が一切ないのである。


「もし負けたら、貴方の正体が男だと言う事をばらして差し上げますわ!」


 高らかに宣言して、また高笑いをした。


「わかった。その勝負、私が受けて立つよ!」


 そう言いながら、麻奈美が前に出てくるが、瑞希は「ダメです」と拒否する。


「社交ダンスは、2人でやるもの……。やるならそこにいる亮さんも一緒ですよ?」


 見下すように瑞希は亮に向かって指を指す。


「亮君……できる?」

「ごめん……。俺運動音痴だから、杏奈と違って全く踊れないかも……」


 自信なさげに亮は答えると、また瑞希は高笑いを始める。


「これで、初勝利はもらいましたわねー!!」


 機嫌が良くなった瑞希は、何度も何度も高笑いをしながら、この場から去って行った。


「ど、ど、ど、どうしよう!!」


 涙目になった麻奈美は、あたふたしながら、頭を抱える。


「これは困りましたね……」


 流石の恵梨香も動揺を隠せないのか、顔が真っ青になっていた。


「2人共、ごめん……。こんな事に巻き込んじゃって……」


 頭を下げて、亮は2人に謝る。


「ううん、気にしないで……」

「いえ、貴方のせいではありません。汚いやり方で無理やり情報を手に入れた瑞希様が悪いですから……」


 2人は怒らずに、亮を優しく慰めた。


「さてどうしようか……。社交ダンス私やったことないんだよ……」

「私もですね……」

「ここは、杏奈様に事情を話して、ご教授を願うしかありませんか……」

「ちょっと待った」


 恵梨香がメイド服のポケットからスマホを取り出そうとすると、そこに亮が待ったをかける。


「どうかしましたか?」

「ごめん、杏奈には心配をかけさせたくないからさ、俺達だけでどうにかしようよ……」

「亮様……」


 もうすぐ、退院して学園へ通えると思って、心を弾ませながらリハビリをしているのに、今日のような事を伝えれば不安にさせてしまうかもしれない。


 それなら、今日の事は秘密にして、自分達だけで対処すれば、何食わぬ顔で学園へ通う事ができるだろう。


「わかりました。亮様がそういうならそうしましょう」

「うんそうだね。私頑張って社交ダンスの動画覚えるよ!」

「2人共ありがとう!」


 こうして、3人はこの逆境を乗り切ろうと、団結するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る