第46話

 5月の終わりになり、杏奈はリハビリテーションでリハビリの日々を送っていた。


 リハビリの甲斐もあってか、杏奈はだんだんと歩けるようになってきていて、6月になれば、予定通り退院できるだろうと医者からは言われているらしい。


「だいぶ、手すりなしでも歩けるようになってるな」

「そうですね。来月中には退院ができるみたいですよ」

「亮君とももうすぐ学園に行けなくなるのかー寂しいなぁー」


 3人のいつものメンバーは、杏奈の頑張っている様子を外から見ながら会話していた。


「俺みたいな男子がいて退屈だっただろ?」

「別に私はそんな事なかったよ?」

「まぁ、私も別に嫌でしたけど、不快ではありませんでしたね……」

「なんだよそれ……」


 そんな会話をしていると、リハビリを終えた杏奈が出てきて、3人は労う。


「今日も終わったぁ……」

「だいぶ歩けるようなってきたなー」

「まぁねー。だいぶ直りが早いって先生にも言われたんだー」


 車椅子を用意して、病室に向かって引き上げていこうとすると、急にその場で踊りだそうとする。


「よっとっと……!!」


 足をふらつかせて、倒れそうになるが、間一髪のところで亮が体を支えた。


「おい、馬鹿何やってんだよ……」

「えへへ、久しぶりにダンスやりたくなっちゃって……」


 昔から杏奈はダンスをするのがかなり得意で、幼少期は麻奈美とはよく2人で、音楽に合わせて踊ったりしていたらしい。


 本人曰く、踊り方の動画を見ただけで踊れるんだとか。


「そうだ! 麻奈美ちゃん、退院したら制服着てまた踊ろうよ」

「うん、退院したらやろうね」


 そう2人で約束して、杏奈は車椅子に乗って病室へと戻る。


「ところでお兄ちゃん。ノート持って来た?」

「持って来たぞ」


 病室に戻り、ベッドの上に座ると、亮の持って来たノートを開いて、中身を確認し始めた。


 丁度中間テスト前に学園へ通う事になるので、中間テストに向けて勉強するためだ。


 あの学園は、テスト範囲がほかの学園の2倍以上の範囲がある。


 なので、入学したての1年は、こうして何か月も前から予習をしておく必要があるのだ。


「お兄ちゃん……。字汚すぎ……。ちゃんと授業受けてる?」


 険悪な顔をしながら、杏奈は文句を言い始める。


「いや、受けてるわ!」

「亮君。ちゃんと受けなきゃだめだよ?」

「ちょ……麻奈美ちゃんまで!?」

 

 同調して、麻奈美も険悪な顔をして、指摘し始めた。


(杏奈に指摘されるのは分かるけど、麻奈美に指摘されるのは納得できない……)


 麻奈美とは席が隣同士で、亮が真面目に受けてるいるのは、分かっているはずなのに、この仕打ちだ。


 理不尽すぎると内心泣きそうになっていると、麻奈美が隣にやって来る。


「ごめんね、つい杏奈の味方しちゃった」


 そう耳打ちをすると、麻奈美は可愛く舌をぺろっと出す。


「別に大丈夫だよ……。気にしてないぞ」

「なら良かったー」


 安心した様子で麻奈美は杏奈の元へと戻っていく。


「じゃあ、皆ー早速始めようー」


 杏奈が声をあげると、恵梨香や麻奈美もノートを取り出し、杏奈と一緒に勉強会を始めと、あーだこーだと3人はお互いの分からないところを教えあっていた。


(さて、俺はなんもすることがないなぁ……)

 

 勉強会をしている中、暇を持て余している亮はスマホをいじって遊んでいると、恵梨香がそれに気づく。


「おいニート、何やってるんですか?」

「普通に、スマホいじってるだけなんだけど……」

「そんな事してる暇あったら、妹のために手伝ってあげたらどうですか?」


 そう言いながら、杏奈の方へと引っ張られてしまう。


 しかし連れてこられたのは良い。


 だが杏奈はすらすらと、悩むことなく、教科書の問題を解いており、全く話しかけられる雰囲気ではなかった。


「あのー……」

「何? お兄ちゃん邪魔しないで」

「分からないところあったりしない?」

「私の事は良いから、麻奈美ちゃんの勉強教えてあげて!」

「わ、わかった!」


 怒りを露わにした杏奈に、亮は追い払われてしまうのだった。

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