第31話

 2人は同時に食べ始めると、瑞希は想像の以上の辛さだったのか悶絶した様子を見せる。


「な、なに!? この辛さ!! 喉が焼けるように痛い!!」


 激辛好きな人でも、あの激辛フカヒレラーメンは悶絶するほどきついようだ。


「瑞希様大丈夫ですか!?」

「えぇ、このくらい平気です!」


 一方で智代はその隣で、まったく動じず平気へっちゃらと言った感じで食べていた。


「栗花落智代様……? 貴方平気なの……?」

「えぇ。とてもおいしいですねー」


 そう言いながら一旦箸をおき、ポケットからヘアゴムを取り出して髪を後ろでまとめ始める。


 平然とした智代を見た瑞希はかなり動揺した様子だった。


「つ……栗花落智代様……? 貴方もしかして我慢してるんじゃないんですか……?」


 瑞希からそう揺さぶりをかけられるも、無視をして尚も平然と食べ続ける智代。


 その様子を見ていて驚いてるのは、瑞希だけではなかった。


「な、なぁ。あれ本当に我慢してないのか?にわかに信じ難いんだが……」


 隣にいた麻奈美も同意して、首を何度も縦に振る。


「本当に我慢してないと思いますよ? おそらく智代様は、辛い物が平気なのではないでしょうか?」

「すごい……。本当に辛い物が得意な人っているんだ……」


 そんな話をしてる間にも、2人は一歩も譲らない戦いを繰り広げていた。


「絶対に負けない……。絶対に負けない……!!」

「瑞希様頑張ってー!!」


 意地を張って、無理して食べていた瑞希だったが……。


「うっ……」


 流石に耐えられなくなったのか瑞希は机に突っ伏して気絶してしまう。


「瑞希様! しっかりー!!」

「だ、だれか……救急車をー!!」


 周りにいたお付きの人と共に退散していくのだった。


「やったー!! またうちのサロンが勝ったー!!」

「あら……。いつの間に……」


 大喜びする真奈美の声に気付いた智代は、周りを見ると、瑞希がいなくなっているのと残された激辛フカヒレスープに気付く。


「どうやら、私の勝ちのようですねー」


 かくして亮達は瑞希の自爆と言う形でまた勝利する。








「ふぅ……。おいしかったですー」


 暫くして、智代は激辛フカヒレラーメンを完食して一息つく。


「ありがとう、智代ちゃん。君のおかげでまた瑞希さんのサロンに勝つことができたよー」

「いえいえ。杏奈さんのお役に立てたなら良かったですー」


 そう言いながら、フルーツゼリーの入った箱を手渡してきたので、亮は受け取った。


「ふぅ……。手に入って良かったぁ……」

「誰かに渡すのですか?」

「大切な妹にプレゼントするんだー」


 とびっきりの笑顔で亮は答えると、それを聞いた智代は無言で亮に抱き着く。


「妹のために頑張るなんて、優しくて人格のある方ですねー」

「ちょ、ちょ智代ちゃん!!!」

「ふふ。杏奈さんパワー注入完了~。妹さん喜ぶといいですね~」


 慌てふためく亮を全く気にせず、智代は清々しい顔で去って行ってしまった。


(智代ちゃん、会うたび抱き着かないと死んでしまう生き物なのか??)


 去って行く智代の後姿、複雑な表情で見ていた亮だったが、後ろからものすごく殺意の高いオーラが背中を貫く。


「亮君……。智代ちゃんとのスキンシップは自重してって言ったよね……?」

「ア……ソウデシタネ……」

「証拠写真を撮りましたよー亮様? ゼリーも買わずにこんなことをしていたと杏奈様に見せればどうなるかわかりますよね?」


 にっこりと半ば脅すような表情で、恵梨香は先ほどの智代に抱き着かれた所が写ったスマホの画面を見せてくる。


 そんなものを見せられてしまえば、杏奈の怒りが爆発してしまう事は目に見えているので、何とか阻止しなくてはいけない。


「あの……どうすればよろしいのでしょうか……」


 畏まった様子で亮はそう聞くと、2人は何かを結託するように顔を見合わせる。


「私、新しい服が欲しいなぁ……」

「私も新しいブーツが欲しいのですが……」

「わかった! わかった! 買えばいいのだろう!? 買えば!」

「流石亮君。わかってるー」

「物分かりがいいですね。亮様」


 こうして亮は、口封じのため2人の欲しいものを買う羽目になってしまったのだった。

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