第29話

「本当にお見苦しいところをお見せして申し訳ありません……」


 落ち着いた智代と喫茶店に入ると、座った智代は申し訳なさそうに深々と頭を下げる。


「いやいや、謝らなくていいよ。逆に助けてくれてありがとうってお礼を言いたいくらいだよ」


 亮は優しくお礼を言うと、智代は晴れ渡るような笑顔になった。


「やはり杏奈さんは、優しいですね……。とても偉大な方だと思います」

「い、いやそこまででは……」


 少し大げさに言われて困惑するが、でもこう褒められると、とてもいい気分になる。


「お待たせしましたー」


 亮の前に煌びやかなフルーツとクリームの乗ったパフェが登場する。


 このパフェは、智代もよく食べに来る、この店の人気のメニューらしい。


「それじゃあ、食べましょうか」


 こくりと亮は頷いて、まずは一口、口に運ぶ。


「おいしい……」

「そうでしょう?そうでしょう?」


 流石智代お目付のお店、そこらの喫茶店のパフェよりも味が1段階も上だった。


 あまりのおいしさに、夢中になって食べていると、そこにチョコレートクリームとフルーツの乗ったスプーンが差し出される。


「へ?」

「杏奈さん、どうぞ」


 どうやら智代はシェアしあいたいらしい。


 確かに、亮と智代のパフェはクリームの部分がチョコか生クリームという違いがあるが、流石に周りの目があるので恥ずかしすぎる。


「流石にそれはちょっと……」


 躊躇して、断ると、智代の目から光がなくなり、今にも泣きだしそうな顔を表情となりかけていた。


「いやですか……?」

「ご、ごめんね! あーん……」


 全力で謝罪をして、口を開けて待っていると、チョコレートクリームとフルーツの乗ったスプーンが口の中へと入る。


「おいしい」

「ですよね。ですよねー」


 チョコレートの方は生クリームとは違って少し苦みがあって、また違ったおいしさがあった。


「じゃ、じゃあ私も……」


 気分の良くなった亮は、亮の方からもシェアしてあげる事にする。


「あーん……」


 今か今かと待ち望んでいる智代の口に、同じように生クリームとフルーツを乗せたスプーンを入れた。


「うーん……。クリームの方もおいしいですねー」


 とてもうれしそうに、頬に手を当てる。


 その表情を見ているとこちらも嬉しくなってくるな。と思って亮は見ていた。


 そんな2人でシェアしている中、亮は後ろから貫かれるような視線を感じる。


(な、なんだ……この視線は……)

 

 恐る恐る振り向くと、後ろからオーラを出しそうなくらい不機嫌な顔をした恵梨香と麻奈美が店の外から、こちらを見つめていた。


(や、やっべ……)


「どうかしましたか?」


 急に慌てた表情をする亮に智代は不思議そうな表情をする。


「ちょ、ちょっと待ってて?」


 急いで亮は、2人の元へと向かう。


「ごめんなさい……」


 2人の前に着いた瞬間、いの一番に頭を下げて謝罪をする。


「役立たずの亮様。杏奈様がこれまで以上にご立腹です」

「でしょうね……」

「それと、フルーツゼリーも1個じゃなくて全種コンプセットじゃないと許さないと言っていました。役立たずの亮様」

「マジかよ……」


 一個でもただでさえ、かなりの値段をするのに、それよりも高いコンプセットとは何て悪魔みたいなことを言うんだと頭を抱えた。


 だがいう事を聞かないと何をしでかすかわからない。


「フルーツゼリーの事をほったらかして、智代ちゃんと遊んでいた罰だね」


 麻奈美もにっこりと不敵な笑みを浮かべる。

 

「はぁ……しょうがないな……」


 ため息を付いて、智代に話をつけようと、戻ろうとすると、もう後ろに智代が立っていた。


「びっくりした……」

「あら、皆さんお揃いで……」


 まずい。今の話を聞かれていたのでは?と、亮は焦っていたが、それは2人も同じで片津を飲んで智代の方を見る。


「ご機嫌麗しゅうございます。智代様」

「やっほー。智代ちゃん」

「恵梨香さんや麻奈美さんもお元気そうで何よりです」


 どうやら、聞かれていなかったようで3人は安堵のため息を付いた。


「ところでさ、このフルーツゼリー売ってる店知ってる?」


 亮はフルーツゼリーの写真が写ったスマホを見せる。


「あぁ、知ってますよ。ご案内しますね。ついてきてください」


 そう言いながら、智代はその店があるだろう方向へ歩き出したので、3人はそれについていく事になったのだった。

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