第27話

 休みの日、何時ものように杏奈の病室に亮は向かう。


 この前の事もあったので、半ばビクビクとしながら病室に入る。


「よ、よーっす。杏奈元気かー……?」

「ふん」


 病室に入るとむすーっと頬を膨らませていて、かなりご立腹の様子だった。


「めっちゃ怒ってる……」

「当たり前だよ! 女の子とあんな至近距離でスキンシップなんて、破廉恥すぎるから!」


 顔を真っ赤にしながら、拳でポコポコと亮の体を叩く。


「痛い、痛い! ごめんって!」

「あのフルーツゼリー買ってきてくれないと許さないから……」

「え、まじ……?」


 杏奈の言うフルーツゼリーとは、有名な果物専門店が作っているゼリーの事で、ゼリーの中にたくさんの果実が、入ってることが特徴である。


 だが、かなり凝った作りになっていることや、果物も高級品を使っているので、お値段もかなりお高くなっているのだ。


(出来れば買いに行きたくない……)


 配信で稼いだふんだんな財力があるとはいえ、無限ではない。


 この前もファミレスで自分のと合わせて4人分を支払ったおかげで、かなりの額を使ってしまったため出来ればもう使いたくないと言うのが正直なところだ。


 であれば……と、花瓶の花のお世話をして恵梨香の方を見る。


「え、恵梨香?」

「いやです」

「即答!? まだ要件も言ってないのに!?」


 呆れた顔で、ため息をつくと、持っていた花切ばさみの刃の部分を亮の方に向ける。


「亮様の言いたいことはわかります。貴方の巻いた種でしょう? 亮様が責任をもって買ってきてください」

「は、はい分かりました……」


 こうして妹の機嫌を直すためにフルーツゼリーを買いに行くこととなった亮は、何時ものデパートへ向かうのだった。






 何時ものデパートへと到着すると、一目散にデパ地下へと向かう。


 到着したところで、亮はある事を思い出す。


(やっべぇ……。売ってる場所聞くの忘れてた……)


 いつもは通販で注文したり、恵梨香に頼んだりしていたのでお店の場所を亮は知らなかったのだ。


(恵梨香に聞かないとなぁ……)


 そんな事を考えながら、スマホを取り出し恵梨香にメッセージを送信しようとした時、後ろから聞き覚えのある声が耳に入る。

 

「杏奈さん!」


 振り向くと、私服姿の智代がこちらに近づいてきているのが見えた。


 フリル付きのブラウスに、膝上丈のスカートと言う清楚な私服だ。


「と、智代さん……こんにちは」


 亮は焦って声色を変えて、智代に挨拶をする。


(最悪な場面で出くわしちゃったなぁ……)


 そう思うのも無理はない。


 何故なら今は亮が来ている服は、男物で黒くて地味なものだからだ。


 この服装で、男だとバレてしまうのではないかと内心ビクビクしていた。


「それにしても、杏奈さんの私服とても地味で男っぽいですね……」

「私こういう服しかもってなくて……」


 やはりバレてしまっているのか、智代は嫌悪な顔をしている。


 万事休すかと思っていた時、急に智代が亮の手を握った。


「じゃあ、可愛い服を買いに行きましょうか!」

「え……?」


 そのまま亮は智代にされるがままにどこかへと連れて行かれしまう。






 手を引っ張られやってきたのは、アパレルショップだった。


「うーん……杏奈さんにはどれが似合いますかねー……」


(めっちゃ、キラキラしてていずらい……)


 あまりこういう店に来たことがない亮は、かなり気まずい。


 そんな事を考えていると、智代は、また亮の手を握ってどこかへ連れて行こうとする。


「え、な、何……?」

「似合いそうな服を、選びましたので、一着ずつ着てください」


 試着室の前に着くと、智代はたくさんの服を渡してきた。


「わ、わかった」


 相当時間がかかりそうで面倒ではあるが、断ったらまたこの間のような顔をされても困るので、急いで渡された服を持って試着室に入る。


(早く、杏奈に買って行ってあげないといけないのになぁ……。手っ取り早く済ませよう)


 素早く着ている服を脱いで、まずはふわふわした、ピンク色の可愛い系のワンピースを着る。


「ま、まずこれはどう??」


 カーテンを開けて、試着室の前にいる智代へ見せた。


「可愛い! すごく可愛くて似合ってますー!!」


 少し興奮気味で褒めてくれたので、気分が良くなった亮はどんどんと服を着ていく。


 お姉さん系やクール系。更には少しセクシー系の服も合ってどれも智代は似合っていると言ってくれた。


「どれも似合ってますけど、やっぱり最初のふわふわ系の服が杏奈さんによく似合っていますねー」

「そうだね。私もそう思う!」


 本当に亮は可愛いなと思って、値段を見ると、吃驚仰天する。


 かなり高級なアパレルショップのようで、普段着ているよりも桁が1つ違う。


「可愛いけど、今日は予算が少ないからパ……パスかな……」


 あまりの高さに亮は躊躇していると、智代は亮からワンピースを取る。


「じゃあ、私が代わりにお支払いしますよ」

「そ、そんな悪いよ……」

「大丈夫です。私が買うと、社員割引が適用されるので!」


 そう言いながら亮の有無も聞かず、智代はレジへもっていくと、さも当たり前のようにブラックカードを取り出してお会計を済ます。


 もう見慣れてしまったが、唯と言いなんで皆涼しいカードをしながらブラックカードを出せるのか、やはりお嬢様はすごいと亮は感心していたのだった。

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