第2話

リビングへ降りると、恵梨香が不機嫌そうにソファに座っていた。


「妹の真似をしながら配信をして稼いでいるの本当に気持ち悪いんですけど」

「杏奈の可愛さを世界に広げるためだよ!」

「シスコン……」


 そう言い放った瞬間、恵梨香は相当ドン引きした顔をしたので亮は咄嗟に「ごめん」と謝った。


「ところで本当に聖ブリリアント学園に杏奈様の代わりの通われるおつもりですか?」

「当たり前だよ。もう杏奈にも言ってしまったしな……。それに俺と杏奈は瓜二つだし絶対にバレないって言う自信があるんだ」


 亮には絶対にバレないという自信があった。小さい頃はたまに兄妹で入れ替わることがあったのだがバレた事は1度もない。


 中学の時だって、一度入れ替わって授業を受けたことがあったがそれでもバレなかった。だから自信があったのである。


「そうですか……。ですがあの学校には殿方もお嫌いな女性がいると聞きますよ? そんな方々に見つかってしまえばどうなることやら……」

「うっ……」


 こんなことを言われてしまうと、先ほどまで揺るがなかった自信が揺らいできてしまった。


「それに有名な財閥や政治家のお嬢様方も通っていらっしゃると聞きます。もしかすると亮様は社会的に抹殺されてしまうかも……」


 確かにそうだ。あの学校は女学園だし男子の入学は認められていない。それに有名な政治家の娘や、財閥ご令嬢がいると聞く。その中で男子だとバレてしまえばニュースにも取り上げられてしまって社会で生きられなくなる危険性もある。


 ダメだやっぱりやめようかな?通うのがすごく怖くなってきた。


 いや、杏奈に通うと宣言しちゃったしもう引き下がることはできない。


「まぁ、そうなったところで私には知ったことないですけどね」


 小ばかにするようにほくそ笑むと、近くに置いてあった紙袋を投げつけてきた。


 投げつけられた紙袋の中身を見ると、聖ブリリアント学園の制服で、まだ杏奈も着ていないのか制服も付属の物も全て未開封のようだ。

 

「え? 何?」


 突然投げられたので、困惑しているとソファから重い腰を上げて裁縫道具を机に用意する。

 

「採寸するので、今から着てください」

「わ、わかりました」


 脱衣場へ急いで向かって、自分の今着ていた服を脱ぎ、ビニールを破くとピンク色の高級感あふれる生地で作られた制服が現れる。


(いつ見ても可愛い制服だな……)


 ワンピース型の制服で、上半身に1年生である事を表す緑色の線が入ったリボン付きのケープを羽織るというお洒落設計となっている。


 どうやらこの制服、巷の女子の間ではかなりの人気があるらしい。


「これでいいのかな?」


 制服に着替え終わって、置いてあった鏡の前に立つと、かなり調和していて、自分が亮ではなく杏奈になったかのようだ。


 これなら絶対にバレない。そういう自信さえも芽生えてきていた。


「気持ち悪い……」

「うわっ!! びっくりした!! な、何?」


 突然声が聞こえたので後ろを振り向くと恵梨香がドアの隙間からこちらを睨みつけていた。


「とても遅かったので、致してるのかと……」


 煽るような顔で手を上下に動かす動きをする。


「そんな事してないよ!!」

「早く採寸したいので、リビングに来てください」

「おう」


 急に真顔になった恵梨香へついてリビングへ行くと、メジャーをもってスカート丈の長さを測ったりする。


 彼女は、家事や裁縫やお掃除に至るまで家庭的な事は全て幼少期に叩きこまれていて容易にでき、それ以外にも簡単な日曜大工もお手の物という出来ないことの方が少ないんじゃないかと思えるくらいのスーパーメイドだ。


「少し、 裾上げが必要ですね。もう脱いでもいいですよ」

「わかった。ありがとうな」

「あぁ、あとこれもお渡ししておきます」


 脱ぎに行こうとすると今度はピンク色の袋を投げつけられる。


 どうやら中身は女性物の下着のようだ。


「あのー……。やっぱ着けないとダメ?」

「ダメです。ふとした時に見えてしまうと取り返しのつかないことになります」


 やはり女性用下着を付けるのはかなり抵抗がある。


 入れ替わった時に付けた事があるが、何時ものトランクスと違って、生地も違うしそれに付けた時に締め付けられる感じがあまり好きではなかった。


(まぁ、こればっかりはしょうがないか……)


 渋々、亮は承諾することにする。


(それにしても、恵梨香がこの下着買って来たんだよな……。こういう可愛い感じのが好きなのか?)


 1つ1つ見ていると、結構可愛い柄物がたくさん入っていた。恵梨香もこういうのを付けているんだろうか……?


 袋の中の下着を夢中で漁っていると、恵梨香から劣悪な視線を感じたので恐る恐る目を向ける。


「キモイ」


 蔑んだ目で亮を見ながら、何度も呪文のように「キモイ」と呟く。


「ご、ごめんって!!」

「どうせ私はこういうの付けてるんだろうなーって妄想したんでしょう?」

「ち、違うって!」

「気分が悪いので今日はこれで失礼します……」


 心底気分が悪い顔をしながら、恵梨香はリビングから出ていく。


「なんか疲れた……。早く脱いで休もう」


 亮も脱衣場で制服を脱ぎ、リビングの机にちゃんと畳んで置くと、その日は自分の部屋に戻って休んだのだった。

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