訪ねてきた人
りんざき
訃報
十数年前、二歳になる娘を連れて関西の実家に帰省した時の話です。
「М――さんが亡くなってん。先月」
独身時代に勤めていた会社の友人ふたりに食事に誘われ、会うなり告げられたのがМ――先輩の訃報でした。
М――という人は、その会社で二十年以上勤めてきたベテラン女性社員でした。ならばお局的存在だったかと言えばまるでそんなことはなく、明るく気取りのないサッパリとした性格で、オジサン社員のベタなギャグにも手を打って大笑いするような子供のように無邪気な人でした。
私の退職後に、肝臓を悪くして長期入院したという話は聞いていましたが、まさか四十代の若さで亡くなるなんて――。
当時、彼女と同じフロアで働いていて、話をする機会はたくさんあったけれど、部署が違う上にプライベートでの付き合いはなかった、そんな私に訃報が届くわけもありません。
「大体、会社が働かせ過ぎるから――」
「社長なんて病院まで仕事の書類持っていって色々させたって。信じられへん」
勤めていた会社は、サービス残業休日出勤当たり前、有給休暇も簡単には取らせないという今でいうブラック企業でした。見切りをつけて退職する社員も多かったのですが、旦那さんと死別して女手一人で子供を育てていたМ――先輩は辞めるに辞められなかったのでしょう。
私と違い、先輩と公私ともに付き合いの長かった友人たちは余程腹にすえかねていたと見え、食事の間、先輩の思い出話と会社への恨みつらみを涙ぐみながら交互に繰り出すのでした。
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