四十 犬の無筆



「人をむ犬がいる所へは、とても近づけないよ」

 と怖がっている人がいた。


 すると知人が、

「いい方法がある。『虎』という字を手に書いて犬に見せつけると、まなくなるんだ」

 と、おまじないを教えてくれた。


 後日、ちょうど犬に出くわしたので、

「よし! あのおまじないを試してみよう」

 と、手に『虎』と書いて犬の鼻先に突き出した。


 だが犬は、そんな字などまったく気にせず、ホカッとみついてきたのだった。


「わあ! 痛え! ちくしょう、ぜんぜん効かないじゃないか」

 悔しいやら痛いやら。その人は近くの寺に逃げ込み、知り合いの僧侶に事情を語って聞かせた。


 話を聞いて、僧侶が言う。

「なるほど、わかった。きっとその犬は字が読めなかったんだよ」

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