廿九 塩鯛狩り



 ある婿むこが、しゅうとの家を訪ねる途中で町を通った。


 その町の市場では、新鮮ながんが売られていた。

 婿むこはこれを200銭で買うと、何を思ったか、がんの胸に矢を突き刺して使用人に持たせ、しゅうとの家へ向かった。


 出迎えたしゅうとは、がんを見て首をかしげた。

「おや、これは?」

「道の途中で仕留めたんですよ」


 なるほど、わざわざがんを買って矢など刺したのは、こんな嘘をつくためだったのだ。

 人のいいしゅうとは、まんまと騙されてしまった。

 大いに喜び、婿むこの弓矢の腕を披露するために一族をみんな呼び集め、がんの肉をふるまった。


 その宴席でおだてられた婿むこは、ますます調子に乗って、

「もう一度仕留めてきましょう」

 と外へ出た。


 婿むこは再び町へ行き、使用人を呼び寄せ、耳打ちした。

「俺は先にしゅうと殿の所へ戻るから、お前は少し遅れてこい。

 いいか、さっきみたいに矢を刺したやつを持ってくるんだぞ」


 そしてしゅうとの家に戻り、

「いやあ、運よくまたがんを仕留めましたよ。撃ち落とした獲物を拾いに使用人を行かせましたから、もうじき持ってくるでしょう」

 いけしゃあしゃあと、こんなでまかせを言う。

 しゅうとは大喜びで、いっそう婿むこ自慢に花を咲かせた。


 しばらくして、使用人が戻ってきた。

「さあ、私の仕留めた獲物をごらんにいれよう」

 婿むこはしたり顔で使用人を呼び寄せる。


 が、そこで婿むこは凍りついた。

 使用人の手の中には、なぜか、矢の突き刺さった塩漬けだいがあったのである。


 なんでたいなのだ。がんはどうした。問いつめたいのは山々だが、しゅうとの前で口に出すわけにもいかない。

 婿むこはしどろもどろになってとぼけた。

「あ、あれーっ? さっきの矢は当たらなかったのか?」


 使用人はきっぱり答えた。

「はい。がんは売り切れだったので、代わりに塩鯛しおだいに当たりました」

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