十五 盗人の家



 昔々、室町幕府八代将軍、足利義政公のころ……


 平安城(京都)に、一人の武士がいた。

 金に困り、具足(鎧)を担保にして質屋から金を借りたのだが、後日、借金を返して担保を取り戻してみれば、具足の糸がちぎれてしまっている。

 質屋の蔵にしまわれている間に、ネズミが糸を食いちぎっていたのである。


 武士は迷惑に思い、いろいろと道理を言い立てて嘆いた。

「弁償してくれよ。でなければ、せめて利息を少し負けてくれよ」

 と泣きついたが、質屋はまったく聞き入れない。


 それどころか、ネズミを一匹殺して、

「こいつが蔵にいて具足を食った犯人だ。だから成敗したぞ」

 と、武士に押し付けるしまつだった。


 武士は悔しく思って、京都所司代しょしだいの元へ訴え出た。


 当時の所司代しょしだいは多賀豊後守ぶんごのかみ高忠たかただ

 武士が事の始めから終わりまでを詳しく語ると、多賀豊後ぶんごはすぐさまこう下知げちした。


「ならば、そのネズミは盗人である。盗人を住まわせた罪で、その質屋を闕所けっしょせよ!」

 闕所けっしょとは、土地や財産を根こそぎ没収する刑罰である。そうして家財をことごとく取り上げ、武士に渡してやったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る