六 正夢、正夢



 人並外れて縁起の良し悪しを気にする侍がいた。


 その侍が、ある朝、ひどく気落ちして言った。

「昨夜、夢の中で、フクロウが家へ飛び込んでくるのを見てしまった……」

 古来、フクロウは不吉な鳥とされていたのである。


 ところが、そばにいた被官ひかん(家来)が、すかさず声をはりあげた。

「それはめでたい!」

「なに? なぜめでたい?」

「『鬼は外、フクロウは内』と申しますから」


 なるほど! と、侍は大喜び。

 災い転じて福となした褒美ほうびに、小袖こそで(着物)一重ひとかさねを被官ひかんへ与えた。


 さて、この様子を、いかにも頭のにぶそうな別の被官ひかんが見ていた。

「殿様、俺にも夢の話をしてくれないかなあ。そうしたら、上手く気に入られるようなことを言って、俺も小袖こそでをもらうのに」


 それからしばらくした別の朝。

 侍が、また夢の話を始めた。

「ゆうべ、ワシの頭が落ちる、落ちる、という夢を見たのだ……」


 今こそ好機、と思ったのか、あのにぶい男がスッと現れて言った。

「それはめでたい! 正夢、正夢!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る