第13話 勇者ゴッドフリートと魔王のウワサ

 腹は十分に満たされた。

 満足感と幸福感に包まれたまま宿屋へ帰還。


 部屋へ戻るやフカフカのベッドへ横になった。

 リディアは、ニキシーと共に風呂へ行った。俺も後で入ろう。



 ◆



 リディアが戻ってきた。

 いつものドレスのような服ではなく、寝間着姿で。いつの間に……!


「おぉ、ネグリジェってヤツかな」

「そうです。持参してきたんです」

「へえ。そんなに多くの荷物を持っているように見えなかったけどなぁ」


 彼女の周りにはモノが増えていた。本やティーセットなどなど。いったい、どこから取り出したんだ?


「アウレアさんはお荷物は?」

「俺は装備しているものくらいだな」

「アイテムボックスに生活用品は入れていないんですか?」

「アイテムボックス?」


 はじめて聞く単語に俺は首をかしげた。

 なんだそれは。


 するとニキシーが説明してくれた。


「アイテムを保管するスペースのことです。冒険者ならだれでも持っていますよ。アウレアさんにも15個くらい持てる余裕があるはずです。ほら、今まで倒したモンスターのドロップ品とかあるでしょう」


「そう言われればそうだ。そうか、これが『アイテムボックス』だったのか……!」


 まったく知らなかったぞ。

 適当な感覚だけで使っていた。


「いろんなアイテムを収納しておけるので便利ですよ」


 と、リディアが微笑みながら教えてくれた。そうなんだな。

 しかもアイテムボックスは拡張も可能らしい。カバンが必要だとか。う~ん、俺は出来れば身軽に旅をしたいのだが、少し考えるか。



 そんなこんなで夜も更けた。



 ベッドへ横になり――眠った。



 翌日、起き上がるとリディアの姿はなかった。



「おや……ニキシーだけか」



 ベッドのど真ん中を陣取るニキシー。丸まっていた。



「リディアさんはお風呂です」


「風呂好きなんだな」

「それはそうでしょう。しかも、彼女は貴族なので」



 なるほどね、それでいつも良い匂いがするんだな。


 朝支度を進めて終えた頃にリディアが戻ってきた。



「お待たせしました」

「おかえり」

「今日はどうしましょうか?」


「プレセペの街を歩く! せっかく来たからね。あと俺の“呪い”の謎を解けるのなら、それならそれで解決したい」


「分かりました。では、ご一緒に」



 俺のレベルはどんどんマイナスになり、装備も呪われる。普通ならプラスになるはずがマイナスになってしまうんだ。

 だけど、それで強いのだから問題はない。

 でも、どうしてマイナスになるのか真実が知りたい。


 宿屋を後にして、街中を歩く。


 プレセペの街は水源が近いせいか、噴水や側溝が発展していた。……ほぉ、綺麗なものだ。


 冒険者も多くいる。

 露天商もいるのか。へえ。


 歩いていると冒険者ギルドが見えてきた。

 クエストの受注やモンスターの情報、アイテムを保管する為の倉庫を借りたり出来るそうだ。大金を積めばダンジョンへの転送もしてくれるらしい。

 そんな詳しい話をリディアから聞いた。


 俺の知らないこと、まだまだたくさんあるな。



 そんな中だった。

 冒険者ギルドの前で多くの人が沸き上がっていた。なんだ……?


 聞き耳を立ててみると――。




「勇者ゴッドフリートがまた魔王城に近づいたらしい」「ゴッドフリート様、すげえよな」「魔王の幹部を全滅させたとか……」「マジですげぇよ。あんなバケモノぞろいを倒しちまうとかさ」「多くのギルドやパーティが壊滅したのにな」「俺もゴッドフリートのパーティに入れてもらえないかな」「そや、仲間を募集してたってウワサだけどな」「本当か!」



 勇者ゴッドフリートか。

 なんとなく聞いたことがある。世界征服を企む魔王を討伐する為に立ち上がったという、選ばれし勇者。


「ゴッドフリートですか~」

「ニキシー、知ってるのか」

「ええ、まあ。精霊界隈ではウワサになっていますし」

「精霊界隈? そんなのがあるのか……」

「猫会議みたいなものです」


 いったい、どんな会議なんだよ……。

 ともかく、勇者と魔王のことなんて知ったこっちゃないね。俺には関係ない。勝手にやってくれって感じだ。

 俺は何者でもない、ただの“村人”だからな。


「それより、クエストでも受けるか」

「それがいいでしょう。今は呪いの謎を解きつつ、帝国を目指す方針でよろしいかと」


 ニキシーの言う通りだ。

 俺は俺の為に冒険を続ける。世界の平和? どうでもいい。俺やリディアの身に危険が迫るなら仕方ないが、今はそんなことよりもレベルダウンの謎を解決する。それが先決なのである。



 冒険者ギルドに入り、俺はクエストを探した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る