第3話 精霊猫・ニキシーと旅立ち

「教えてくれ、猫」

「ニキシーです」

「ニキシー、その“呪い”について詳細を教えてくれ」


 聞くとニキシーは、かなり真剣な――いや、劇画顔になった。なぜッ!?


「それは……」

「それは……?」


「わかりませ~ん」


 俺はその場でズッコけた。なんで分かんねえんだよォ!? てか、呪いということは分かっているのに、詳細は分からんとはナンダソレ。


「まあいい……そもそも、お前は何者だ?」

「ボクは精霊です。猫の姿は可愛いからです!」

「なるほどね。精霊に会うはこれが初めてだ。でも、なぜ村長の家に住み着いているんだ? 捨てられたのか?」


「失礼な。ボクはお腹が空いて……いえ、深手を負ってクリーミー様に助けてもらったんです」


 空腹で倒れていたところを助けられた――と。把握した。

 猫と話す、なんだか奇妙な気分だが……精霊という上位存在なら仕方ないか。


 その後、会話を終えて俺は部屋へ向かった。


 今晩の寝床へ向かうと、そこにはクリーミーの姿があった。


「――うおッ! クリーミー! なぜここに!」

「ここは私の部屋だからです。お待ちしておりましたよ、アウレア様」

「ちょ、え……。まさか一緒の部屋だったの!?」

「はい。今日は全力で添い寝させていただきますっ!」

「そ、添い寝って……本当に添い寝だけ?」

「もちろん、この身を捧げる覚悟ですっ!」


 興奮気味にクリーミーは言った。マジかよ!!

 ついに俺に春が訪れた!?

 そりゃ、こんな美人のお嬢さんと一晩を過ごせるとか夢のようだ。しかしなぁ……いいのかなぁ。俺はたいしたことはしていない気がするのだが。

 それに、彼女が俺の運命の人なのかどうか分からない。

 正直、今“好き”って気持ちは湧かなかった。


 う~~~ん……。


 やっぱりちゃんと恋愛をしてから、そういうことをしたいような――でも、このチャンスを逃したら二度とないような。悩ましいゾ。


「……」

「アウレア様、まさか私ではご不満なのでしょうか……」


 しゅんとしょげてしまうクリーミー。そういうわけではない。彼女は美しく、胸も大きい。スタイルも抜群。でも、彼女の中には元恋人の存在がいるはずだ。そこに俺がズカズカと入っていいものか……。


「クリーミー、俺は……」

「一晩でいいのです。アウレア様に抱いていただきたい……」


「…………ッッ!」


 欲望に負けた俺は、クリーミーと一晩を過ごすことにした……!



 うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉ…………ふぅ。



 ――翌朝。



 ベッドから起床して俺は準備を整えた。出発だ。



「……お待ちを、アウレア様」

「すまん、起こしてしまったか」

「昨晩はありがとうございました」


 ほぼ全裸のクリーミーはシーツで自身を包んだ。頬を赤くし、俺を見つめる。……ああ、そうだった。俺は彼女と楽しい楽しい一晩を過ごしたのだった。


「俺は旅立つ。この能力の謎と呪いを解く為に……」

「分かりました。でも、また気が向いたらこの村に立ち寄ってください。それと、もし将来の相手が見つからなければ……私に声を掛けてください。お待ちしております」


 できれば彼女を連れていきたい。

 だが彼女は一般人だ。

 なんのスキルも持たない、か弱い乙女だ。

 これから俺が進む道は、危険で過酷。連れていけばきっと命を落とすだろう。


「ありがとう、クリーミー」

「あ……そうです!」


 思い出したかのように彼女は微笑んだ。


「ん?」

「代わりと言ってはなんですが、ニキシーを連れていってあげてください」

「なんだって?」

「あのコは精霊です。きっと役に立つかと」

「いいのか……」

「はい。ちょっと寂しいですけど……あなたの旅に役立てるのなら」

「助かるよ」


 俺はせめてもの好意を受け取ることにした。ここで拒否れば、それこそ彼女に申し訳がたたない。ここまで良くしてもらったからな。

 それに、猫の一匹くらいなら何とかなるだろう。アイツは精霊でいろいろサポートしてくれそうなのは事実だ。


 玄関でニキシーを拾った。



「よろしく、猫」

「だから、ニキシーですってば」

「分かった分かった」



 クリーミーと抱き合い、そして別れた。

 根性の別れではない。

 きっと、また、会えるさ。



 * * *



 隣の村を去り、俺は再び草原を疾走していく。


 今日は快晴なり。最高の風。最高のロケーション。なんて壮大で美しい世界なんだ。俺はこんな世界を見たことがない。

 ずっと村で引きこもっていたからだ。


 この世界のどこかに俺の謎を解き明かす方法があるはず。


 ……そうだ。


「帝国へ向かいましょう、アウレアさん」

「って、俺の心を読むなッ」

「精霊ですから」

「なぜドヤ顔。まあいい、そうだな……帝国を目指そう。あそこには様々な人種。職業。パーティやギルド……コロシアムもあるという」


「帝国はヤバいですからね!」

「まあな。俺は一度も行ったことないけどな」

「そうしたか。この場所から歩いて一か月というところですね」

「ほう……。一か月かぁ。って、一か月も掛かるの!?」

「さすがに徒歩では……」


 しまったなぁ。ということは馬とか乗り物が必要か。それとも気長に行くか。そう考えていると近くで叫び声がした。



「きゃああああああああああ!!」



 この声は女性の!

 よし、俺の出番だな。



「俺の目的はレベルダウンの解明だが、人助けもする。最底辺の俺が成り上がるためにな」

「いいですね。そういうのはアリだと思います! このボクも全力でサポートいたします」


 やるべきことは決まった。

 今は女性を助ける!

 それが最優先事項だ!

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