Case note 憂鬱なナースサマリー

おおかど朱鷺子

サマリー1  鬱

第1話

鈴野さんごは狼狽えていた。あたふたしていた。


「あ〜どうしよう。ここはどこなのぉ〜」


彼女は渋谷のわりとヤバイ場所で迷子になっていた。


初めての東京、初めての渋谷。明日派遣先の入社をひかえ、要り用の物を買うために出たはいいが探すものが増え、あっちの店こっちの店と行くのはいいが、この迷路のように入り組んだ渋谷のドツボにはまってしまった。


そして神様も見放した。スマホの電池もなくなってしまった。

頼みの文明の利器が使えなくなってしまったさんごは巨大な迷路の街をかれこれ二時間ほどさまよっていた。


とうに日は落ちて空には星のかわりに、けばけばしいピンクやグリーンのネオンが人の欲望を隠しもせず幅を利かせていた。

ネオンとその下の暗がりに招かれるのは濃厚な時間を過ごしたいカップルだけだ。


 おのぼりのさんごも薄々この辺は早く抜けた方が良いと直感していた。直感を受け止めているものの、さんごの動物的勘は向かうべき針路は指してくれず、やみくもに歩くしか知っている道を覚えのある道に出る方法がなかった。


 駅ならどこでもいい。とにかくここから早く抜立ち去りたい。 消費電力の激しい端末を握りしめ、充電器を持ってこなかった自分の落ち度をひたすら悔やむ。

土地勘もない。地図もない。探しているものも見つからない。

今、夜11時。途方に暮れる。

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