Do or Diet

 櫻子の顔から血の気が引いた。スカートのホックが、閉まらないのだ。

 思いきり腹をへこませる。ホックを引っ張る手に力を入れる。それでも、金具は届かなかった。


「どう?」

「もうちょっと待ってー」


 試着室の外から、誠也が呼びかけてくる。出来る限り平静を装って返事をした。手のひらに、汗が滲んでいた。

 どうして、こんなに肥えてしまったのか。答えは明白だ。誠也と毎週毎週飲み歩きをしたからではないか。裏路地の焼鳥屋、雑居ビル2階の海鮮居酒屋、通り沿いのラーメン屋……楽しかった思い出は、腹回りに堆積していた。


「ふんっ! ぬっ!」


 無理矢理にホックを引っ張る。内臓を潰す覚悟で腹に力を入れる。閉まらない。急に、怒りが込み上げてきた。ほぼ同じ物を食べてる彼氏は、少しも体型が変わっていない。


 Awazon超お急ぎ便。そう書いた箱が足元に置かれていた。櫻子は、神に祈りながら開く。中には「みるみる痩せる!」と書かれたコンニャクゼリーが入っていた。


「違う、今じゃない」


 頭ではわかっていた。即座に痩せられるような物など存在しないと。それでも、食べずにはいられなかった。腹が、膨れた。より、閉まらなくなった。涙が、止まらなかった。

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