YOUは何しに寿司屋へ?

「私、生魚ダメなんですよ」


 女は、事も無げにそう言った。ならば一体どうして寿司屋の暖簾をくぐったのか。浩三は問い質したかったが、ぐっと堪えた。そういう人間すら満足させてこその「職人」だ。


「それでは玉子はいかがでしょう」

「私、玉子アレルギーなんですよ」


 浩三は歯を食いしばった。

 お前は寿司を知らないのか。喉まで上がってきたが、飲み込んだ。万策尽きたわけではない。を使おう。そう思ったときには、既にAwazon超お急ぎ便の段ボールが2つ、置いてあった。

 1つには近江牛のモモ肉が入っていた。肉寿司は、グローバル化が産んだ新しい形だ。使う機会は多くはないが、準備は常に出来ている。

「それではお肉を使った寿司を」

「私、ベジタリアンなんですよね」

 塩を、掴みかけた。お前は寿司をなんだと思っている。口を開いたら出てしまいそうだった。しかし、抑えた。まだ、策はある。

 浩三は、もう1つのAwazon超お急ぎ便の箱から、ラディッシュとズッキーニを取り出す。それを透けるほどの薄さに切り、酢飯の上に飾る。それは、絵画を描くことに似ていた。紅と翠で彩りを象り、仕上げに柚の皮を添えた。まな板の上に花が咲いていた。


「それでは、野菜寿司で」


 女の顔に笑顔が浮かんだ。様々な角度から喜色満面でそれを眺めると、酢飯の上の野菜だけを剥がして食べた。


「私、糖質制限中なんですよね」


 浩三は、塩を掴んだ。

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