第3話 記憶喪失のふり

記憶喪失と言えばドラマでは定番だ。要するに、余計な一言をつつしめばいいだけだ。


「えーと、記憶が喪失してます、はい」


「記憶喪失・・何か覚えていないのか?」


羽ペンを苛々と回す。器用だ。たまにずっと回している奴とかいる、あのタイプだ。


「無いです。ぐすっ、どうしてだろう。えぐっ」


一応泣き真似しておこう


「お、オイ、こらっ、泣くな。今から、そこのルーサという町で事情を聞いてやる、うぅ……困った。だから、ルカといったか。お前、泣くなと言っているだろう!」


困ってる

ははは、ざまぁ


「えぐっ、うぐっ」


演技にきょうがのって来たので、声を大きくする。


「よしよし、うぅ…困った。とりあえず、飲み物でも飲んで、何か食べればいいだろう?な?」


チラリと目を上げると、青い瞳がうれいを含んで見下ろしてきた。ムカついていたが、意外といい人間なのかもしれない。


おごるって言ってたしな


「はい、申し訳ないです」


「いや、仕事だからな。持ち合わせあったかな」


リュックの様に背にしている袋の中を覗き込んでいる。


何だ、わりと貧乏人なのか


少しがっかりしなくもないが、朧気おぼろげな記憶からか前の世界でも金持ちはろくな人間がいなかった気がするので、良しとしよう。


前の世界っていえば、車に跳ねられた事と、大学生だった事、

後はどうでもいい事しか思い出せない

ペン回しとか


「大丈夫そうだな、行くか」


「はい。ペガサスは?」


寝倉ねぐらに帰った」


「飼って無いの?」


「この笛で呼ぶ。知能が高いからな、飼うのは難しい」


「へー。専門家なんですね」


「警備隊の一員だからな」


「警備隊」


「一一門番と話す。少し待つように」


「はーいっ」


敬礼をしてみるが、見事にスルーされた。

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