二次元サークル

シオノコンブ

プロローグ

 六月十二日 月曜日


暗い夜。

時刻は深夜一時十三分。


静かな森の中に、小さく数多くの足音が聞こえてくる。

銃まで備えた武装に身を包む人影は森の中を進む。


『それで、こんな山奥にアジトなんて本当にあるのか?』


無線の音がインカムを通して聞いている男はその声に面倒臭そうに答える。


『調べは完璧なはずだ。でも問題はそれだけじゃないだろ。たとえ本当にアジトがあったとしても逃げられたら全部水の泡だ』


それを言われた隊長はげっそりとした気分になった。


これまで何度も『ブラックマーケット』のアジトを掴んでは追ってきた。

にも関わらず、『能力機動隊』はいまだにブラックマーケットの拘束に成功していない。


勢力はとても大きいと言えるものではなくとも、力の大きさは強大。

アジトの居場所が簡単にわかってしまうのはそれが起因している。

つまり、ブラックマーケットはたとえ見つかったとしても逃げられる確信があるのだ。


追う側としては許せない話だ。

完全に舐め腐られていて、黙っているわけにはいかないのだ。


『今度こそ捕まえる。今回失敗すれば、全ては第一部隊に引き継がれる。手荒を横取りされるのは嫌だろ』

『そうでもないけどな。俺たちが追うよりも第一が追った方が効果あるだろ』

『冷めてるな〜』


副隊長としては願ったり叶ったりと思っている。

第一、に引き継いでさえもらえれば怖い組織と戦わなくて済むようになる。

仕事だからと割り切るのは難しい。


『で、アジトまであとどれくらい?』


副隊長は印がつけられた地図を見て現在地を確認する。


『そうだな、そんなに遠くないな』

『距離的には?』

『距離的には………』


そう言って顔を上げた副隊長は目の前にある建物を見て答える。


『あと、10メートルくらい?』

『早く言えよ本当に』


副隊長は周りに素早く指示を出し、建物を囲むように陣形をとる。


『総員、準備は?』

『いつでも行けます』


作戦をあらかじめ立てているとはいえ、それで今まで失敗してきているのであまり安心はできない。


むしろこの場にいる全員が作戦通りにいかないことはわかっている。

どれだけ周到に用意してきたとしても、相手はそんなこと意には介さないのだから。


『わかっているとは思うが、作戦通りに行くのは最初だけだ。少しでも崩れたら各々好きに動け』


めちゃくちゃだがこうするしかない。

副隊長と隊長は経験上理解している。

ブラックマーケットは、いつでも自分たちの予想を超えてくる。


『それで隊長、今日の勝算はどれくらい?』

『12%くらい?』


やや自信無さげな声に肩を落とした副隊長は気合を入れ直した。

副隊長的にはあまり拘りはないが、隊長にとっては拘りがありまくりなブラックマーケットの逮捕。

二年間ほど追い続けてきた努力を無駄にはしたくない。


『それじゃあ始めるぞ。A班行け』


作戦に合わせて組んだAからEまでの班。

そのうちのどこまでが作戦通りに活用されるかはわからないが、無策で挑むよりはいい。

副隊長の指示に従い、A班が建物の中に足を踏み入れた。


その瞬間、建物が爆発によって丸ごと吹き飛んだ。


突然のことだが驚きで思考が停止しないように隊長は無線に向かって叫んだ。


『お前ら絶対奴らを逃すなああああ!!!』


その言葉とほぼ同時のタイミングで爆発によって起こった煙の中かから五つの影が姿を現し、それぞれ別の方向へと移動していった。


『隊長どうする!?』

『全員の確保は諦める!取り敢えず誰でもいいから追え!!』


全く別の方向へと進んでいった影全てを追う指示を出す暇はない。

とにかく今は一人でも確保することを隊長は優先した。


隊長は適当に視界に入った人影を全速力で追う。

副隊長は体調が追っていった影とは別の影を追った。


木が入り乱れる森の中を迷いのない動きで駆け抜けていく人影を隊長は同じ経路で追う。


純粋な足の速さで一歩勝る隊長は徐々に前方の人影との距離を詰め服を掴もうと手を伸ばした瞬間、その人影は後ろを振り向いた。


「本当に、お前らは単調だな」


隊長はその人影が手に持つものを視界に入れる。

それはナイフだった。


この状況でナイフを取り出して何の意味があるのかと一瞬頭を回転させ、答えは瞬時に出た。


ブラックマーケットのメンバーの中には、こんな能力を持っている奴がいた。


生物以外の、触れたものを爆弾に変え、三秒後に爆発させるという能力。


「クソッッ!」

「遅えんだよ」


そして、急いで後ろに跳んだ隊長に向けて爆弾に変えられたナイフを投げる。


「さん、にー」


指を折りながら数を数える。

爆発までのカウントダウン。

そして俺が隊長の懐に入った時。


「いち」


そのナイフは激しい爆発を起こした。

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