第三章 王
過去
僕が生まれついた家はちょっと頭がぶっ飛んでいた。
「ここの数式を……いや、違うな。この解法ではたどり着けない。もっと別の……」
父親は数学だけにのめりこんで、その人生を捧げていた。
「あぁ、実に良い音だわ。もっと、もっといい音を。私の表現を」
母親は音楽だけにのめりこんで、その人生を捧げていた。
「あぁ、駄目だ。ダメだ。だめだ。この程度じゃぁぁぁ、私が書きたいものじゃない。まだ、まだ、まだまだまだまだまだまだまだ」
姉は絵だけにのめりこんで、その人生を捧げていた。
「ここのミクちゃんの声はもっと高く……ふふふ。私が、私がミクちゃんを世界一輝かせてあげるからね」
妹はボカロだけにのめりこんで、その人生を捧げていた。
「……」
全員が、誰もがその他、すべてが興味ない。そうとさえ言えるたった一つの物に執着していた集団。
家族関係が構築できるか……いや、出来るわけもない人たちの集団。両親が子供を作れたことに対して、まずは驚きを覚えるような。
それが僕の家だった。
「何で僕が……」
そんな家族の中で、僕だけは特に好きなこともなかった。
何ものにも興味のなかった僕が自分の家を支えていた。
学会に発表しようともしない父親の公式をまとめて、勝手に論文として公表。父親が勝手に解決していた未解決問題を公表して、その賞金を獲得。
母が歌ったり、弾いた音楽を編纂して、公開。
姉が要らないと言って捨てた絵を回収して販売。
妹の作った曲を配信サイトで公開。
人間らしい生活をまともに送ろうとしない家の中で、僕がたった一人で家族が無限に作り上げるもので金を生み出し、それを運用しながら家事を行って、家族が生きていけるように工夫していた。
「こんなことをしないといけないんだ」
まともに食事をしようとしない家族に、食事をしてもいいと思わせるように彼らが興味の引く匂いは何かを研究したり、必要以上に料理などには気を使わされていた。
風呂に入るよう要求するのも、着替えさせるのも、そのどれもが大変だった。
誰も自主的にしようとしないから。
当然、全員の髪などを切って整えていたのは僕だった。
そんな生活の中で、思う。
「はぁー」
あの時代の僕は、ただただ自分に現状を憂いていた。
つまらない、と。
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