爺や
真っ昼間から色町へとやってきて、軽く三回戦くらいした後。
「ずいぶんと大事になっているようだ。これは、まだまだ波乱が波及しそうだねぇ」
僕は三階建ての色町の建物の一室から窓の外を眺めて、今の王都の状態を見る。
王都の中の端っこにある色町の方からも地方の方から集まってくる貴族たち一行の声が聞こえてくるし、普通に飛んでこっちの方にまで来ている者たちも見えてくる。
今回の一件の大きさがそれらによってわかるだろう。
「うぅん……」
僕はベッドで疲れ果てて嬢がまだ眠っているのを放置して立ち上がり、自分の体を魔法で綺麗にする。
そして、服に裾を通した後、ここを後にする。
「……ティラン様」
僕が店から出た瞬間。
待ち構えていたのは燕尾服をまとった一人の男性であった。
「何さ」
燕尾服をまとったその男性。
僕はその彼に酷く見覚えがあった。
彼はヘオース……だったか?長年、アフトクラトル辺境伯家に仕える執事、爺やである。
「相も変わらずのようですね。ティラン様」
「当たり前だろう。僕はその時、その時に自分の好きなように生きる。ただそれだけさ」
「えぇ、存じ上げておりますよ……それで、ティラン様。御父上がお呼びになっています。どうか、私と共に」
「それは流石にアフトクラトル辺境伯領にまで来いって意味じゃないだろう?」
「もちろんにございます」
「父上がこんなところにまで出張ってくるなんて珍しいものもあるじゃないか……何を考えている?」
「ただの執事である私くめにはとうてい……」
「ふっ、僕が会ったこともない祖父の時代から我が家に仕えていた忠義者がよく言うよ。君が知らないわけないだろう?」
この爺や。
ただの使用人ではあるものの、勤続年数がレべチであり、うちの内情にもしっかりと詳しいだろう……下手したら、次期当主となることがほぼ確定している僕以上に。
「私の口からは何もお告げできることはございません」
「そうかい、なら、仕方ねぇな」
だが、かといってこんなところで無駄口を叩いて時間を浪費しているような時間はないだろう。
「それに、こんな話、娼館の前でするもんじゃねぇよ」
執事と餓鬼。
その二人が娼館の前で向かい合っているというのは非常にシュールであり、周りからも随分と目立っていた。
「……本当に、その通りでございます」
「それじゃあ、父上の元にまで案内してくれ」
「承知いたしました」
そんな自分の言葉へと切実な様子で頷く執事と共に、僕は父上の元へと行くのだった。
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