泣いている女

大学生の頃。

彼氏と一緒にナイターを見た帰り道、帰路へつく他の大勢の人たちを避けるため、人通りの少ない道を歩いていると、スマホを耳に当て咽び泣いている女性が私たちの少し前にいた。

夏とはいえ、部屋着も同然のよれよれの格好で夜道を歩く姿が可哀想で見てはいけない気がして私はあまり見ないようにして横を通り過ぎた。

彼女の泣き声が聞こえないくらい離れたところで、私は隣を歩く彼氏に「あの人、可哀想だったね。何があったんだろ」と言った。

だが彼氏の返事は「人なんかいた? 俺、自分たち以外誰もいなくて怖いなって思って歩いてたんだけど」だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る