夜の硬い北の地で
@arahoni108
夜の硬い北の地で
棲息の北限である此の地では夜の硬度が非常に高い
捕食者から逃れるように此の地にやって来た私たちの祖先は
否応なく其の躰を変質せざるを得なかった
夜の硬さに侵されるように適応し徐々に硬くなっていった流動状の躰
半固形の躰は波打つようにプルプルと震え適度に弾力がある
移動するときは弾力を利用し跳ねるように躰を弾ませる
捕食者が居ない此の地で素早く動ける躰になるなんて皮肉なものではあるけれど
冬になり夜の硬度が増すと様相は更に変わってくる
躰は更に硬くなり、氷のように、石のように、固まってしまう
だから私たちは秋の終わりから冬にかけて躰をできるだけ丸くして過ごす
固まった後に滑らかに転がれるように
固まると摂食できなくなるので過食して滋養を躰に蓄えることも忘れてはいけない
稀に冬の間に固まったまま餓死するものも居るのだ
綺麗に丸く固まることができれば跳ねるよりも更に速く転がることができる
けれどその分細かい制御や急な制動が効かなくなるので事故も絶えない
速度を出し過ぎ曲がり切れず深い割れ目に落ちたり
止まり切れず氷壁や岩塊に激突し粉々に砕けてしまうものも少なくない
捕食者たちの居ない安全な地の筈なのに
自分たちの迂闊のせいで生存率はそれ程高くなっていない
私たちは概ね其の様にして此の地で生きている
付記)
冬の間南に“渡る”ものも居る
夜が軟らかい南の地で流動状で不定形の――祖先たちと同じ――躰になる
ずるずると這いずる移動は緩慢で捕食者たちの餌食となる危険度は高いが
そんな状況さえも楽しんでいるのだという
尤も冬が終わり南から帰ってくるものは1/3程に減っているのだけれど
其れもまた生存数がなかなか増えない要因の一つとなっている
夜の硬い北の地で @arahoni108
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