逃げられない
マツシタ コウキ
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1.
一人の男が夜道を歩いていると、あるものが目に留まって足を止めた。
それは、古びた家の裏路地に立つ自動販売機。電灯が残り少ない寿命を表すように明滅している様を見て、男は羽虫のように近づいていく。
「こんな場所に自販機なんてあったんだな。いつも散歩で通ってるのに」
自販機の前で、観察力の低さを反省する。しかし、それは新たな発見による興奮で搔き消された。
男が夜中に出歩いているのはなぜか。それは、夜食後の空腹感を満たすためのジュースを手に入れるためである。
身体に悪いのは分かっている。しかし、空腹感で寝付けず、寝不足で仕事に支障をきたす方が、男には恐ろしく感じるのだ。
それだけじゃない。三大欲求の一つである食欲に抗えないというのも、理由の一つである。
「何だよ、4つしか商品ねぇじゃん。しかも全部一緒だし、気持ち悪ぃ見た目だな」
男は怪訝な表情で自販機を見つめる。4つしかない商品ダミーの全てが、白いハテナマークだけの黒い缶という得体のしれない不気味さを表している。
男は商品ダミーの下に目線を落とす。そこには、「飲めばいいことがあるよ!」というキャッチフレーズらしきシールが貼られている。
「こんなの誰が飲むんだよ。てか、100円ってクソ安いな。…なんだか気になってきたな」
途端に興味が湧いた男は、口角を吊り上げる。なぜそう思い始めたのかは、自分でも分からない。しかし、彼の右手はすでに、ズボンのポケットにある財布を掴んでいた。
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※修正箇所(2024.9.1)
「俺」→「男」
一人称視点から、三人称視点に変更しました。
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