第10話 PANTA&HAL『1980X』

 PANTA&HALの演奏面を支えていた今剛さんは、1979年5月の日比谷野音のライブをもって、脱退します。そして『日本のTOTO』とも言われたフュージョン系のスーパーグループ『パラシュート』を結成します。実力があっただけに、自分のグループを持ちたいと思ったのは仕方ないでしょう。当時はまだ20歳ぐらいの若さでした。喧嘩別れではなく、円満に脱退したようで、後のレコーディングにも顔を出したといいます。


 メンバーもベースの村上元二さんも脱退、ギターに長尾行泰さんが加入。(後にイルカさんのサポートメンバーとして活躍)、ARBのサンジも一時期加入しています。そして以後もPANTAのバックで活躍する中谷宏道さんがベースを任せられます。(HAL解散後は、甲斐バンドのサポートに参加もしています)そんなメンバーチェンジもあって製作されたのが『1980X』です。プロデューサーは前作から引き続き鈴木慶一さんです。


『1980X』は、『マラッカ』と並んで日本ロック史上の傑作のひとつと言われますが、印象は全然違います。『マラッカ』が南の海を連想するような、情熱的で人間臭さを感じるようなイメージなのに対し、『1980X』は、最初はX-DAYをテーマに考えていたような不穏な感じで、最終的には東京をテーマにした機械的でシャープなイメージです。どちらのアルバムも、それぞれの良さは感じられます。

 言ってみれば、『マラッカ』は柔道家時代の小川直也さん。少々ぽっちゃりした感じです。対して『1980X』は肉体改造した総合格闘技時代の小川直也さんですね。体を絞って引き締まった感じです。わかりにくい例えですみません。


 兎に角、『1980X』は、ソリッドでタイトな感じのアルバム。『モータードライブ』、『Audi80』、『オートバイ』といった機械的なものを歌ったものが多いから、そう感じるかもしれません。そして硬派な感じのものも。世界初の試験管ベビーをテーマにした『ルイーズ』の冒頭のギターのインパクトは凄いです。


 https://www.youtube.com/watch?v=QeANyK1Brnk


『Audi80』は、雨の高速道路を走る車をイメージしていますが、ラストの方での『強風波浪注意報』のコーラスはPANTAらしいものです。これをカッコよく歌うとは流石のセンスだと思いました。


 https://www.youtube.com/watch?v=lcUkkaSQ3_Q


『1980X』は東京をテーマとしていますが、この頃は何故か東京を扱うものが多いです。例えば遠藤賢司さんの『東京ワッショイ』、近田春夫&ハルヲフォンの『電撃的東京』、フリクションやリザードが中心となっていた『東京ロッカーズ』等。そして一番有名なのは、沢田研二さんの『TOKIO』ですね。PANTA&HALも自分達を紹介する時には、『東京ローカルロックンロールバンド』と言っていました。


 https://www.youtube.com/watch?v=eW26mSscl-c&t=33s


 余談ですが、この時期のPANTAのアルバムのジャケット写真を撮影しているのは、世界的なカメラマンの鋤田正義さん。日本のロックだけでなく、Tレックスのマーク・ボランの写真やデヴィッド・ボウイのアルバム『ヒーローズ』のジャケット写真を撮影している人です。鋤田さんのドキュメント映画が作られた時は、PANTAはトークセッションにも参加しています。この当時は映画が作られているのを知りませんでした。スクリーンで見たかったなぁ。


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