第51話 スカアハと魔王
案内された城には再び奇妙な音楽が流れておる。
この曲調はダンジョンのものと同じである。
つまりここは……ダンジョンではないのか?
「なんだぁー、あの姉ちゃん足動かさずに歩いてるぞぉ?」
「トンカツよ。お主は外で待っている方がよいかもしれぬぞ」
「ばっか言うでねぃー。道具屋を無事に連れて帰るってのが今回の依頼だぞぉー? このトンカチ魔王が絶対にダンジョンモールまで送り届けてやるからな。ぬわーっはっはっはっはっは!」
ううむ、我はトンカツを助けたら落ちてここに来たような気がするのだが。
しかし魔王たるもの細かいことを気にしてはならぬな。
それにしても……「気付いておるか、トンカツよ」
「ああ、匂うな」
「うむ」
「絶対に美味い飯があるぞぉ」
「……うむう」
まるで分かっておらぬようで分かっておるようで分かっておらぬ。
そんな無限ループとも思われる発言である。
いやいや、こやつは魔王。きっと分かっておるはずだ。
城の中は異常である。飾られてある絵は全て動いておるし、巨大な時を計測する道具が逆さに回り、道を進めば左右に立つ
これには温度が無いように思えるな。しかし魔法ではない。
正面を行く人形のような娘も頭を三百六十度回しながら進んでいるが、魔力が無い。
しかし目は定期的に閉じ、薄気味悪い笑みを浮かべたままである。
「おい、やっぱりあの姉ちゃん変だぜ……」
「そうであろうな。あれには精気が無い」
「ええ!? 性別が無いのか?」
「分からぬが……性別?」
「だって今よぉ……」
『到着シマシタ』
そう言われて正面を見ると、延々と続いていたように思える廊下だったにも関わらず、我らは赤色の門前にいた。
ゆっくりと扉が勝手に開くと……間違いなくスカアハがそこにはいた。
……いや、こいつは人でも道化でもない。
適切な言葉で表すなら、神というやつではないのか。
「まさか、こんなに早く会えるとは思わなかったよ」
我々が扉の中に入ると門はしめられた。
退路はない。素材などは十分ある。
一応頼れる味方もおるが、我の予想通りなら争いにはなるまい。
「言葉が分からぬのではなかったのか、スカアハよ」
「こっちは本体。それにここはダンジョン地下五階との狭間。だから大丈夫。あなたが私と対談を褒美に望んだ者だね。あなた……地下二階で私を知ったの? ダンジョンディフェンス攻略者で間違いないよね」
「その通り。我の名を知るがいい。我が名は……」
「トンカチ魔王だ!」
「ふうん。トンカチ魔王。覚えておくよ」
「違う! 我が名は!」
「おう。それでは歌います。聞いて下さい。魔王・デ・サンバ!」
「トンカツよ。少々だまっておってはくれぬか……」
と、我が言うより先に、陽気に踊って歌い始めおった。
正面のスカアハはぴくりとも動かずこちらを見ている。
「こっちもね。まさか報酬に私との対話を望むとは思わなかった。予定が随分と狂ったかな」
「いくつか質問がある。答えるのだ」
「その前にあなた……転生者だね」
「転生? 我は転生などしておらぬ。我がしたのは転移であるぞ」
「違うね。あなたは転生してる。しかも死ぬ前の姿で。これは
「
「死の瞬間、まだ死ぬべきでない者を死なせないために運び込む道理を作る。それが死転。その者の結末は死。しかしその死を削り取るとどうなると思う? こうやって異世界へ運び込まれる。そうだね、少し調べよう……
突如空中から黒と紫で統一された巨大な本が出てくる。
……これも魔力ではない。
トンカツがそれを見て別の歌を歌い始めたがそれどころではない。
我は額に汗をにじませた。
こやつは……存在が違う者だ。
「ふう、あった。アール・ヴェニーテ。死因、凍死。水本流留奈、死因、溺死。ベリドーグ……これはおかしいね。二人同時に死んでる」
「むう? なぜ名乗っておらぬ我やアーニー、ルルたちのことを知っておるのだ」
「書いてあるんだよ。ここ最近、死転した者のリスト。スカアハはそんなことが出来るように作られた……道具だから」
作られた道具だと!? こやつ自身が超越した能力を持っておるというに、さらに上の存在がおるとでもいうのか。
「それにしても不思議だね。冷静に話が出来るってすごいよね。カーニバルを退けたけど、被害は出たんだよね? それなら私を恨んで攻撃してくるんじゃないのかな?」
「そのようなことはせぬ。お主はどうもいびつな存在である。一体目的はなんであるか?」
「ダンジョンは永劫生み出され、そしてダンジョンに永劫縛られて住み続ける。それがスカアハの運命。次々とダンジョンが造られ、そこら中にあるダンジョンに姿を現す。人々はダンジョンを求める。絶望と恐怖を味わいながら、ありったけの宝を求める。凶悪なボスモンスターを倒し、幻想級ともいえるような武具や、伝説の素材、あるいは地位や名誉を得たい。スカアハの提供することは、ダンジョンを求める者たちにそれらを与えることなの」
「それではまるで人形ではないか」
「人形じゃないよ。私も、そこにいるウアタハも、元々はただの人間さ」
「人間……だと!? 冗談を申すでない。どうみても人の領分を越えておるわ!」
「ここは影の城。私たちはあるダンジョンをクリアした。息子は大きな城を望み、娘は体が悪かったので、体を良くして欲しいと願った。私はダンジョンを統べる者を願い、より多くのダンジョンに、いえ、ダンジョンに住みたいと願ったんだ」
……まさか、その臨んだ結果がこれだとでもいうのか。
「願いはまとめて叶えられた。息子は城となりダンジョンと結びつき、娘は動きやすい体を手に入れ怪我をしなくなった。私はダンジョンを統べ、ダンジョンを産み出し、永劫ダンジョンで生きる者となった」
「むごいことをする……もはや呪縛であるな。お主はその呪縛を解放されたいのではないか」
「分からない。ただ欲しいものを手に入れた。ダンジョンが好きだ。訪れる者を直接見ることは出来ない。話も出来ない。ただ、宝を求める欲を感じることは出来る。危険な罠を仕込み、時には命を落とす者をモンスターに変えることもある」
……おおよその謎が解けてきたな。
しかし我が死転とやらで転生というのは納得がいかぬ。
我は確かに移送したはずである。
そしてイーナの道具屋前にたどり着いたのだ。
それに、もう一人死んだとは一体誰のことだ?
「スカアハよ。質問を変えよう」
「……もう時間切れみたい。あなたとはもう一度会って話がしたいな。ここへはきっと、地下三階を攻略したら来れるから。だから……トンカチ魔王、また……会いましょう?」
「んあ? 呼んだか? 新しい歌が閃きそうなんだよぉ! 少し考えさせろぃ!」
「おい、我はトンカチでは無……」
くそ。妙な光に包まれおった! ええい、褒美とやらはもう終わりだとでもいうのか!
「話をさせぬかーー!」
「閃いたぞぉ! それでは歌います。城の匂いで空腹魔王!」
「……む。ここはダンジョンモールの我の店前ではないか。ええい、余計謎が深まったわ!」
どうやら強制的に城から追い出されたようである。
一度部屋に戻って整理でもするか。
む? 地下三階の道具屋の扉が開いてルルが出て来たな。
青い顔をしておる。
というより……泣いておる。
「あ、ああ! 騒がしいと思ったらベリやん! ちょっとどこいってたん! アーニーちゃんが、アーニーちゃんがダンジョンに行ってもうたんよ!」
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