第19話 ダンジョンの呪いである
青色の長髪男。どうやらこやつはこの集団のリーダーであるな。
しかしアリア……なんちゃらとは覚え辛い名前である。
異世界道具屋レーベルのようなスムーズな名前を付けられんのか!
「ヤザク。一体何をしていたのかな」
「出しゃばって来るなよな、リーダー」
「君の粗暴に目をつぶるのはダンジョンの中でのみ。そう伝えたはずです。これ以上暴れるなら……」
むう。一瞬にして雰囲気が変わった青髪長髪男。
なかなかの殺気である。
そしてこやつが持つ剣、なかなかではないか。
よく見れば着衣もなかなかである。
まぁ我からすればなかなか止まりであるがな。
「ベリやん。ぐわーっはっはっはっはって笑いそうな顔しとるで?」
「ルルよ、我の顔色を読み取るでない。してお客人には伝えたが、我の店は明日開店である。並ぶにしても早すぎるので、また後日来るがよい」
「こちらは……もしかすると噂の道具屋ですか。魔道の小瓶、大変貴重なものを安く手に入れることが出来ました」
むう? そう言いながら懐から出したのは確かに我が販売したものであるが……こやつに売った覚えはないな。
「実は自慢している者がおりましてね。二千レギオンで購入させていただきました。あちらは大喜びでしたが、これほどのものがたったの二千レギオンで手に入るとは驚きです。あちらはいくらで購入したか知りませんがね」
と、それを聞いて我の横をつつきひそひそ話を持ち掛けて来るルル。
「ちょっとベリやん、転売されとるやん! あれ、値段一つ五百レギオンちゃうの?」
「うむ。この世界の貨幣価値がよく分からぬが……イーナの店舗代を聞き、これでもふっかけたのだぞ?」
「おっと失礼、申し遅れました。私はアリアドルの旅団、団長のアギトと申します」
「ほう? 我が名は! ……ドーグさんである」
「ドーグ殿。うちの団員が迷惑をかけたようで。ぜひ謝罪を受け入れて欲しいのです」
「おいアギト。何勝手なことを言いやがる。俺はこいつに剣を!」
「だまれ。これ以上恥を上塗りするつもりか」
「くっ……」
「うむ。その銀剣を溶かしたのは我である。しかしなぜただの銀剣を使っておるのだ?」
「なぜだと? 軽くてそれなりに優れる扱いやすい剣だからだろうが」
ふうむ。無駄だと思うが一応
【調査】
銀剣
それは不純物の混ざる銀で出来ている。
それは曲がっている。
それは対象の魅力を引き立てる。
曲がっている効果により、それは対象の魅力を引き下げる。
やはりなんの変哲もない曲がってしまった銀剣である。
この世界で銀剣はそのような位置にあるのか。
我としては銀剣など宝箱にも入れぬ品である。
と、我が話そうとしたらアギトという者が手で制してきおった。
「ご存知かもしれませんが、このモールでは現在、武器の取引が行えません。その理由はご存知でしょうか?」
「いや。存じてはおらぬ。疑問には思っておったがな」
「ダンジョンと一体化した影響で、このショッピングモールは強力な呪い効果が付与されています。そのため……よく見ていて下さい。ヤザク。その剣はもういいだろう。私が預かる」
「……ほらよ」
「こちらに二千レギオンの札を付け、売ろうとします。いえ、正確には札などつけなくても構いません。ヤザク。この二千レギオンを。そしてその銀剣を受け取ると……」
「……なんと!」
銀剣が消滅しおった。
取引成立で物質が消滅する呪いか。
これは確かに強力な呪いである。
いや、我のモンスター創造能力にも似た力である。
やはりこのダンジョン、相当強力な魔王がおるに違いあるまい。
ダンジョンにも十全たる魔力が満ちておった。
ふむ、少しだけ興味が湧いたが……。
「この二千レギオンはお詫びとして受け取ってもらえますか?」
「いや、金を受け取るわけにはいくまい。剣を消滅させてしまったな」
「いえ、どのみち処分するつもりでしたから。先ほど私がヤザクより剣を受け取れたように、取引ではなくただの譲渡であれば問題ありません。このショッピングモールから相当離れた町であるならば、その影響はないようです。ただその距離を考えると、不便であることは間違いありませんね」
「そうなるとまさに呪い……であるか」
「ええ。地下一階層のナイトメアが倒され、地下二階層が開いてからは、地下二階層で販売されていたものについて取引が可能となっています。ただし地下二階層でのみその効果を得られます。こちらでも道具のみを売るように義務付けられているはずです。何が起こるか分かりませんからね」
「ふむ。アギトとやら。貴重な情報をもらってしまったようだ。明日我の店に来るがよい。新商品も仕入れておるからな?」
「ええ。ぜひ立ち寄らせてもらいましょ……う?」
と話の腰を折ったのはルルである。
「あんな? お兄さん。うちらの商売邪魔して、ベリやんが良いって言うてもうちは許さへんよ? あっちのお兄さんめっちゃ怖かったんよ? それに仕事も遅れてまってるし。きっちり働いてってもらおか?」
「これは失礼しました。ヤザク、アリシャ、バルゲン。手伝おう」
「それはいいけど、メルミルとドータは?」
「二人は宿屋で休ませているよ。まだ小さいんだ。無理はさせたくない」
「小さいって言ってもそれ種族のせいでしょ。実年齢あんたより上じゃない」
「種族年齢で言えばまだ十歳そこらだぞアリシャよ。さて、我々は何を手伝えば?」
「したらそうやな。はい」
「これは?」
「バケツと雑巾やで。あんたらは掃除や! しっかり磨いてな!」
ううむ、ルルは怒らせると怖い。
しかしこやつら……ふむ。これは良い考えが浮かんだやもしれぬな。
彼らに無料で新商品とする予定のものをくれてやり、宣伝してもらうのも悪くないか。
マーク殿は忙しいであろうから、バレッタが先であるな。
――結局彼らには隅々まで掃除をさせてしまったルル。
あの突っかかって来た男も結局ルルにたじたじである。
しかしその男が掃除を終えて我の方に来よる。
「おいてめえ。後で勝負しろ」
「しつこいやつであるな。大体勝負といってもなんの勝負をしたいというのだ?」
「決まってるだろ。バトルだよ、バトル。おめえ強いんだろ? そんな匂いがぷんぷんするぜ」
「む……そういえば風呂に入っておらなんだな。どこぞに水浴びをする場所はないか?」
「てめっ……後で水場くれえは案内してやる」
「ほう。なれば仕方ない。少しだけ遊んでやるか。ただし貴様が負けたら……我の店の商品を定期的に買うのだ! ぐわーっはっはっはっは!」
「ふん。俺が負けるとは思えねえがいいだろう」
よし、やったぞ。固定客を得たのだ。
しかしこのヤザクという男……ふむ。
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