第17話 冒険者、アリアドルの旅団
この世界には多くの種族が住んでいる。
大陸中央に位置するこのショッピングモールには、かつて世界中の者が寄り添い合うように買い物をしに来ていた。
――ダンジョンと一体化してからというもの、普通の客として訪れる者は以前の半数以下となってしまった。
半面、増えた客たちもいる。
それは冒険者。
彼らは仕事を引き受けダンジョンへ潜り、依頼されたものなどを拾ってきたり、ダンジョンに生息するモンスターなどの素材を取ってきたりしながら生計を立てている。
ダンジョンショッピングモール。
地上五階、地下五階の十階層構造からなるこの建物は、現在地下三階から五階までへの通路が閉ざされている。
これらを解放するため、ダンジョンショッピングモール管理者たちは広く冒険者を集い、攻略に向けて日々多くの冒険者が集まってきていた。
上階及び三階層の一部は宿泊施設があり、いわゆる宿屋として利用可能。
二階は全面食事処となっている。
一階層は入口と受付があり、犯罪者が逃げ込まないかの警備チェックが行われる。
ここはダンジョンショッピングモール三階層。
以前はただの衣類などを売るブースであったのだが、この階層全ては階層され、現在は冒険者ギルドとして活用される場所となっている。
冒険者ギルド受付は、今日も大繁盛しているようだ。
「はい。依頼内容は地下一階層に生えるオドリキノコ五本の採取です。期限は今日から二日間ですから、なるべく早くお持ち下さいね。はい次の方。こちらはあなたの冒険者ランクでは受注出来ません。もっと低いランクのものを持ってきてください。次の方ー!」
「えぐい……連日の忙しさ……もうダメ死にそうハミィーさぁん」
「文句言わずやりなさい、後輩君。それにしても増えたわね、冒険者」
「なんでも珍しい道具を売り始めたお店が出来たってもっぱらの評判らしいです。今は閉店中らしいので、今のうちに稼いでおこうってはりきってるらしいですよ?」
「へぇー。はい次の方……パーティーでの地下二階層探索ですか。地下二階層はモンスターも強力ですから入念に準備を。こちらの依頼はブラッディパンサーの牙三本。現在のパーティーなら問題ないかもしれませんね。お気をつけて!」
冒険者依頼の窓口は五つもあるが、現在はどれもパンクするほど忙しい。
この場所には共にダンジョンへ向かうパーティー募集エリア、団らんをする休憩場所、クエスト完了後に一杯だけお酒を無料で飲める場所もあり、ダンジョンモールで最も人々が集まる場所である。
ただし、他種族が多く集まる場所がゆえに、喧噪も絶えない場所である。
「おいてめえ! ドワーフのくせにリザードマンの前を横切るとはいい度胸だな!」
「あーごめんなさーい小さきものなのでよく見えなーい」
「このっ。ふざけた言い方しやがって! てめっ……」
「おい、ぎゃーぎゃーさわぐんじゃねえトカゲ共が!」
「なんだと! ……ちっ。アリアドルの旅団かよ……」
一杯無料で飲める酒。この場所はクエストを終了させたものだけ立ち入れるが、現在はクエスト完了者が多くいる。
アリアドルの旅団とは、現在ダンジョンショッピングモールにおいて大きく活動している集団である。
ただ、地下一階層のナイトメア攻略で先を越されて苛立っていた。
現在この場にいるのは三名の団員。
別のクエストで活動している者が三名の合計六名である。
「リザードマンに当たり散らしてもしょうがないだろ、ヤザク」
「ああ? 俺は下らねーことで絡んでるトカゲが気に入らなかっただけだ」
「はいはいドワーフちゃんを助けたんだよね優しいよね女の子にはー」
「性別なんざ知るかよ。ドワーフなんざ女か男かなんて俺にゃ分からねー」
「あんたエルフにも同じこと言ってたよね。そんなに女になんか興味無いなんて風にしてると、男に狙われるよ?」
「ぐっ……何言ってやがるアリシャ。俺は別にそんなつもりはねー。んな下らねー話より……なぜ地下二階層のナイトメアが見つからねーんだ、くそ!」
「そもそもナイトメアが地下一階層にしか存在しないって可能性は無いのか?」
「運営側がそう断定してるだけでしょ? 地下一階層のナイトメアを倒したってやつの話を真に受けてさ。だからこっちで地下二階層から三階層に行く道を探すってリーダーが言ってたんじゃん」
「アギトの野郎が言うことも一理あるけどよ。俺ぁいると睨んでる。もっとダンジョンについて知らなきゃいけねーが、ここの連中にそんな意気込みのあるやつがいねえんだよ」
「うむ。確かに日々、ここに冒険者共が集まっておるが、大した者はおらんな」
そんな彼らが話をしていると、またクエストを終えた者が入って来た。
彼らは怯えたような顔をしている。
「……どうしよう。やっぱ報告した方がいいよな」
「ああ……だが一体なんて報告すりゃいいんだ。信じられない」
「おい、あいつら様子おかしいな」
「ねぇそこの人。こっちに来て一緒に飲まない?」
「……アリアドルの旅団!?」
「私はアリシャ。そっちのツンツンしてる男がヤザク。大きなドワーフがバルゲンよ。それで? なんの話?」
「地下一階層で信じられないものを目撃したんだ……あれは間違いない。モンスターのパーティーだった!」
「モンスターのパーティー? 別に集団で動き回ってるのは珍しくないでしょ?」
「いや……そんなもんじゃなかった。しかも上位の種族……オークか何か分からないが、そのモンスターパーティー、全員色がピンクだったんだ! しかもその上位オークっぽいのがボスっぽく、光る鎧を身に着けていた!」
「ああん? オークが鎧を着てピンクだぁ? 何言ってやがるおめえら」
「ひっ……」
「怯えさせてどーすんのよバカ。それで?」
「そいつらが……女の子を抱えて地下一階層のモールへ戻っていったんだ……」
「……おい。冗談言うのも対外にしろよ。なんでモンスターがモールに入れるんだ?」
「待てヤザク。それは獣魔の可能性があるな」
「でも、オークの獣魔?」
「オークだけじゃない。全員何か装備をしていて分からなかったが、あれはモンスターだ……」
「複数の獣魔を同時に使い、女の子を?」
「おいバルゲン。アギトと合流するまでまだ時間があるよな」
「ああ。アギトはまだ地下二階層から戻ってきてない。時間はあるがどうするつもりだ?」
「地下一階層、大したもんが売ってねー道具屋しらみつぶしに当たってみるぞ。へへへ、面白いことが起こる匂いがするぜ」
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