第16話 商品の入荷である! 

 オー君に担がれてイーナが無事戻って来たが、どうやら怪我は思ったより酷いようである。

 全く、無茶をしたようだ。

 オー君以外はこれで役目終了。ひとまず消失させるのである。

 

 治療薬を作ってやってもよいのだが、骨折を完治させるような薬は副作用も強い。

 急速に治療速度を上げれば人の体には負担が大きいのだ。

 まずは安静にさせておくのがよかろう。

 

「うう、ご迷惑をお掛けしました。私頑張ったんですけどね。ムイちゃんみたいなのばっかりだと思ってたのに……」

「イーナよ。傷は痛むか?」

「傷よりも申し訳なさで心が痛みます……」

「失敗など何度しても構わぬものだ。構わぬのだが……イーナよ。我と店をやるならば、我に相談せぬか……と我が言えたものではないな。まずは飯を食うがよい。その腕ではしばらく商売はできまい」

「はうう。私のお店、これじゃやっていけないですよね。一体何やってるんだろ……」

「よっこいしょっと。ベリやん、これでええか?」


 道具屋でイーナを励ましていると、我が指示したものを購入したルルが戻って来た。

 イーナは首を傾げているが……まだ紹介しておらなんだな。

 バレッタは気絶しておるままか。


「イーナよ。こちらは我が便利道具屋イイナで働くルルと申す転移者だ。気立てが良く、客引きには持ってこいである」

「……ええーー!? うちの従業員? どうして勝手に雇っちゃったんですかぁー。うちにはお金が無いんですぅー! っと声を張り上げると痛い……」

「落ち着くのだ。バレッタを起こしにオー君を向かわせておる。店の金については少々割引してもらえるようだぞ。それにしばらくは稼いだ金が……おっと、残りは二十レギオンしかないな。まぁ大丈夫だ。食糧も多くあるぞ。生きていくには困らないであろう?」

「二十レギオン……もう支払いまで日にちがありません。どうしましょう……」

「なんや明日、むちゃくちゃ稼いだったらええだけやないの。怪我して落ちこんどるのは分かるけど、元気だそ? お水飲む?」

「いただきます……ぷはーっ。励まされたせいかすごく美味しい……」

「ほんまにただのお水やで? まぁうちみたいな若い子が入れたお水なら、その辺の叔父さんには高く売りつけたろかな。こっちのお金の価値、知らんけど」

「ええっ? それだけで高く買ってくれるんですか?」

「あはは、イーナちゃん反応おもろいなぁ。イーナちゃんていくつなん?」

「私ですか? 今年で二十一歳ですけど」

「へー。年も近いわ。怪我の治療終わったらいっぱい話しよ? その前に仕事やらなあかんけど。ベリやん、この箱どこ置くん?」

「しばし待つのだルルよ。まず我はこの店の配置などを詳しく確認する。入口から店の商品置き場までの距離や位置関係、それから真っ先に視界に入る目線の高さなどであるな」

「そんなん適当でええんやないの?」

「いえ、ドーグさんの言う通りです。お客さんが入って来て直ぐに自分が欲しいものがあるかどうかってすごく大事……ってお父さんが昔言ってました」

「へぇ。イーナのお父ちゃんもこういうの売ってる人なん?」

「……父は。いえ、そうですね」

「ん? 何か聞いたらまずい感じやった?」


 ふむ、二人が話してる間にこちらでさっさと準備を済ませよう。

 まず入口の扉はそれなりの大きさである。

 扉を開いた右の奥から順番に商品が台の上に乗せておける入れ物がある。

 だが、高さが低い。ここはもっと高くした方がよいであろう。

 小人族への配慮といえば聞こえはいいのだが、それは別に用意せねば小人族には見えまい。

 高さで言うならドワーフでも下を見なければならん位置である。

 長身のエルフやリザードマンなどにはさぞ見え辛かろう。

 更に下に商品の補充用、隠せる棚が必要である。

 あまり多く並べすぎると売れていないように思えるからな。

 微妙に売れてる商品を宣伝することも重要である。

 さて、一番目立つであろう扉を開けた正面。

 ここにはルルに絵を描いてもらおう。

 ズバリ、今の目玉商品は我が魔道の小瓶である。

 この売れ行きが良い状態であれば、これを主軸商品として小銭を稼ぐのが無難である。

 そして我としてはイーナに薬草をポーションにする作業、そして穀物を焼いた飯を作ってもらいたいが……一人では難しいな。

 バレッタに手伝ってもらうとしよう。

 しかしオー君め。何をもたついておるのだ。

 我は忙しいのだ。

 さて、もう一つ。

 商品が食糧と回復ポーションの入った魔道の小瓶だけでは少ないであろう。

 そこで我は考えた。

 我のサクリファイス……この実験段階と、我の新たなる商品として可能となるかどうか。

 第一弾、何の手助けもしないかもしれない癒し系モンスターを呼び出せる……紙を我が作る。

 そしてそこに記されたモンスターを自らのペットとして連れ歩くことが可能な道具を創造するのだ! 

 これには難解となる点がいくつかある。

 まず第一。これは獣魔ではない。

 戦いには参加せぬことを条件にする。

 第二。このペットが死亡した場合それは素材となった元の紙ごと消滅する。つまり完全消滅である。

 第三。このモール管理者の許可。

 これが降りねば創造は難しいであろう。

 しかしこれらをどうにか出来れば、いつでもだれでもムイのような無害モンスターを所持し、呼び出せる。

 まぁムイは獣魔契約ではない獣魔の存在であるから特別であるのだが。

 当然餌が必要なモンスターなどもおるが、極めて小さく、害のないモンスターを創造して紙に封じ込めたいのだ。

 これをなんという名前にするか、どういった形で宣伝をすれば売れるのか。

 これらはルルやイーナに相談が必要であろう。

 どれ、早速二人に……「ふー、もうお腹一杯です。ムイちゃんも美味しかった? ……痛つつつ」

「ピキーーーー!」

「異世界の食事言うてもなんやあんまり変わらんな。もうちょっと塩が聞いてるほうがうちの好みやけど。ラーメンでも食べたいわぁ……あ、バレッタちゃん。どうしたの、そんな青白い顔をして」

「鎧を着たモンスターに追われています! 助けて下さい! 相当強いモンスターです!」

「あらオー君。お帰りなさい。大活躍やったやんね?」


 ちょうど戻って来おったか。

 なぜかオー君が落ち込んでおるように見えるが……うむ。

 役目ご苦労である。


「よくやったぞオークヘヴィナイトよ。消失してよい」


 鎧と首飾りは残る。

 やはり元となる鉱石は消失してしまうか。


「わー、オー君消えた!? 頑張ったから誉めてあげよ思てたのに!」

「我が褒めておいたのだ。問題あるまい」

「ちゃうねんて。女の子に褒められた方が頑張れる言うてるの! 今度から消す前に一言聞いてや?」

「う、うむ。分かったぞルルよ。そしてまたひっくり返るを発動しそうなバレッタよ、しっかりするのだ! イーナの怪我を見てやって欲しい」

「……えっ? イーナさんは無事戻られて……ああっ! 怪我してるじゃないですか! 早く回復術師の下へ行きましょう!」

「え? え? でも私お金が……」

「私が肩代わりしておきますから。ルルさんのことでお願いもあるんです」


 うむ、これでイーナのことは任せておけるな。

 さて我はルルと明日の店開店準備を進めねばなるまい。

 マーク殿に相談もあるが……ふむ。

 忙しくてまるで道具研究が出来ぬではないか……。


「おっと。オー君に渡していた首飾りを回収せねば。宝箱もこの中であったな。だがこれはイーナの宝箱である。戻ってきたら開封するとしよう」

「なになに? 宝箱て。面白そうなことまた起こるの?」

「ルルよ。お主の世界には宝箱など無かったのか?」

「あるにはあるけどな。オー君が着てたこんな鎧みたいなのは入ってへんよ。この鎧もオー君みたいなの作れてしまうん?」

「可能ではあるが、この鎧……そうであるな、すでに我が強化した魔紋の銀鎧とでもいうべき品物であるが、これであるならオーバーデスナイトくらいは造れるやもしれぬ。しれぬが……消えてしまうからな」

「ふーん。よー分からんけど消えたら可哀そうやんな? モンスターボールみたいにしまっておけたらええねんけどな」

「モンスターボール? それはどのようなものであるか?」

「ゲームとかにな。よくあんねん。モンスターを捕まえてしまっておくんよ。それでいつでも出して戦わせたりすんねん」

「ほう。発想は我と近いが……ふむ。球か。いや、それよりも紙であれば封印の儀式図と創造の儀式図を同時に描ける。球体では無理があるな」

「紙? つまりカード化してモンスター封じておくの? 恰好ええやん! 絵も描いてな?」

「ふむ。どの様なモンスターが封じられるかは見て分からねばならぬから、そのモンスター絵を浮かび上がらせることは可能である。どれ、一つ試してみるか」

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