私の機械人形

武田修一

手に入れたい

 ショーウインドウに並べられている一つの機械人形。

 きらきらとした金色の髪の毛、まるで太陽を宿したかのような光の瞳、透き通る肌をした細い手足、全てを包み込むような黒いドレスをまとった彼女は非の打ち所がない完璧な機械人形だった。

 私はそれを見るたびに心惹かれ、呼吸すらできなくなってしまうほどに見とれてしまっていた。どうしても彼女が欲しいという思いと、このまま太陽のようにここにいてほしいという思いがいつも交差している。そう、この日までは。

 のそのそとショーウインドウの横を店員が横切っていく。一つの機械人形の前に来ると、最終セールと書かれた紙をぺたんと貼り付けた。値段の紙も一緒に。それはだいぶお安くなってしまった金額で、薄給の私でも手が届きそうな。

 いいやそんなことよりも。最終セールと書かれてしまったということは、もしかして、いいえこんなにいい機械人形が、でももしかして。これからも残り続けてしまったら、処分されることもあるのかしら。そんなことになってしまったら。いいえ、残ることなんてあり得ない、こんなにも美しいのだから。それとも他の誰かがこの機械人形を購入してしまって、私は二度とお目にかかることがなくなってしまうのかもしれない。

 そんなのは絶対嫌だ。

 初めて私の中に手に入れたいという感情が芽生える。

 他の誰かに、ましてや処分されるなら、私が手に入れたい。

 私の光であった。それを手に入れる為に、店の中へと入った。


「いらっしゃい」


 先程、最終セールの紙を貼っていた店員だった。

 商品の番号を伝えると、のそのそと先程と同じような動作で、ショーウインドウまで向かっていく。そして横抱きのまま、持ってきた。

 私の目の前には、焦がれていた機械人形がいる。

 きらきらとした金色の髪がさらりと流れて、光輝く瞳と目が合ったような気がした。

 店員は機械人形を椅子に座らせて、頭を開く。唐突だったのでギョッとしてしまったが、電源を入れないといけないのだから当然の動作だった。店員は何の説明もしてくれないまま、かちゃかちゃと何かボタンを押して、開いた頭を戻す。

 起動の仕方が全くわからなかったが、説明書を読んでどうにかするしかない。説明書は何が何でも取得せねばと心に誓った。


『起動します』


 鈴を転がしたような声と共に機械人形が動いた。

 目に光りも宿り、まっすぐとこちらを向いている。ああ、動いている。その事実だけでなんだか泣いてしまいそうなほどだった。


『マスター登録をお願いします』

「……ほら」


 とん、と背中を押される。テレビで見ただけの知識で、震える手を機械人形の顔の前に差し出す。

 ぴ、ぴ、ぴ。

 小さな電子音が鳴り響く。


『マスター登録完了致しました。よろしくお願いします、マスター』

「あっ、よ、よろしくお願いします……」


 震える手をきゅっと握って言われたものだから、私はここで倒れてしまうのではないかと思った。

 店員が電卓をはじいて、こちらに提示してくる。私は少し前に作った人生初の銀色のクレジットカードを差し出す。

 ぴろん、と決済音。ああ、さよなら私の貯金。

 足りるであろうが、少しだけ寒くなってしまったのだった。

 決済音と共に早く出て行けと言わんばかりに背中を押されたが、説明書諸々を要求して、なんとか必要なものを準備してもらってから、店を出た。


 横には夢見続けた光があった。

 これからはずっと。私と共にいてくれる。私の光。


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