魔術大家の落ちこぼれは人間の魔法が使えない。
千歳ぎつね
第1話 落ちこぼれはハンターを目指す
『魔法が使えんのなら、お前にこの真南宮の家は継がせん。いいな?』
『でもお父さん! ちゃんと魔力は操作できるんだ! これ見てよ! ね?』
小さい俺が必死になって父親にアピールしていた。魔法は僕にもいつか使えるんだ! って。(何言っても無駄だ)
だが父親は、その努力を認めはしなかった。子供に向ける目じゃない。まるで無能な役立たずを、ごみを見る目だった。
『特別な才能も宝の持ち腐れだ。まさか、この年まで本当に魔法の一つも使えんとはな。お前に掛けた時間と金が無駄だったな。お前はもう大人しくしていればいい。家は葉二に継がせる』
『そ、そんな…。でも、僕だっていっ』
『葉一!! 我が家は日本の魔術大家の一つ。魔法が使えないなどと、何の皮肉だ? 家の恥を世に晒せとでも言うつもりか? お前は魔術学校にも行かせんからな』
『何で僕だけ……、お父さんお願い! 時間はまだあるでしょ?』
父親に拒絶されてるのに、泣きながら、見捨てないでよ。って。何やってんだよ小さい俺。(やめろよ)
小さな俺は、泣きながら服の裾を掴んで引き留めようとしたが、当の父親に突き飛ばされてしまった。それでも、待ってお父さん! と。
「もういい止めろ!」
「きゃあっ!」
「あっ。 ご、ごめん。嫌な事思い出してさ。あはは…」
教室でボーっと先生が来るのを待っていたら、昔のことを思い出してしまった様だ。隣の女子の悲鳴が俺を正気に帰らせてくれた。申し訳ない。
くそっ。何で思い出したんだあんなこと。
あんな家、二度と帰るか。くそ親父め。あんなの七歳の子供に言う事じゃないだろ。しかもあれから六年、父親とは一言も口を利かなかったしな。
あんな事が遭っても小さかった俺は、諦めずに努力し続けてたんだけどな…。結局、今の今まで魔法を使う事は出来なかった。
あの父親の言う通り、時間の無駄だったってわけだ。それもまた腹が立つ。
「入学式も終わって、皆は晴れて今日からハンター予備軍となったわけだ。これからは通常授業に加えて、体力トレーニングに戦闘訓練等、ハンターの基礎を学ぶ事になる。気を引き締めろよ! でだ、取り敢えず一年間一緒にやって行くからな。皆の自己紹介をしてくれ!」
ウチの担任がやって来て、新入生の俺達に活を入れてくる。いい先生みたいで安心するな。にしても自己紹介か…。マジで嫌なんだけど。
俺は魔法の道を諦めるしかなかった。どれだけ魔力が多くても、どれだけ魔力の操作が上手くたって、魔法を発現出来なきゃ意味はない。あいつに突き放された時よりも、もっと小さかった頃は、
権能……、持ってるのになぁ。だからずぅーーーっと諦めきれなかったんだ。
神童なんて言われて持て囃されて、勘違いして、フタを開けてみれば凡人以下とか笑えないよな。
…俺を勘違いさせた家の大人達も悪い。あんなん言われたら誰だって勘違いするって。
俺がずっと固執していた権能って言うのは、人が魔力を持つようになってから、時折生まれてくる特別な才能の事だ。
才能自体は珍しいものじゃなくて、剣や槍の才能、魔法に関する才能と色々ある。これを持っていると、魔力を使った技や魔法が扱えるようになる。今に生きる人間には、無くてはならないものだ。
その上位に位置するのが、俺も持ってる権能なんだ。因みに俺の才能は、『魔の権能』と言って、全く役に立たなくて、ホントに何の為にあるのか分からない。
「次、真南宮」
「あ、はい」
未だに魔法に未練たらたらで物思いに耽っていると、俺の番が回った来てしまった。
…気づかないでくれよ。
「えーっと、真南宮葉一です。才能は刀の才で、剣を学びに来ました。これから一年間よろしくお願いします」
俺は無難に自己紹介した。嘘は言ってない。ちゃんと『刀の才能』は持ってるよ?
ただ、教室が少しザワザワし出した。
俺の事なんて気にしないで次に行ってくれよ。
「真南宮って、あの真南宮?」
「聞き間違いだろ」
「何でハンター学校?」
「魔術学校じゃないんだ?」
「流石に違うっしょ!」
俺の実家、真南宮家は日本を代表する七大魔術大家の一つ。
こうなる事は分かっていた。誰も気づかないで欲しいという、淡い期待はソッコーで打ち砕かれてしまった。
真南宮なんて苗字、他にいないもんな。ウチの祖先が国から名を貰ったって聞いている。
「おーい、静かに! 次だ次。次、持田!」
良かった。先生が気を使ってくれたのかな?
覚悟はしていたんだ。落ち込む必要も無い。三年、波風立てずに卒業出来ればそれでいい。
俺は、家から、真南宮家から逃げ出して来たんだ。
どれだけ魔力を高めたって、刀の才を磨いたって、魔法が使えなければあの家には無用の存在だった。
最初は俺の才能に期待していた人間も、俺が欠陥品だと分かると、潮が引いたように俺の元から離れて行った。
弟の葉二もそうだった。小さな頃は可愛かったけど、自分が跡継ぎになったと知ると、…今じゃあ俺の事をサンドバッグ代わりにしか思っていない。
唯一、六つ上の葉子姉さんだけが、変わらず俺に接してくれた。母が亡くなってからは俺達の世話もしてくれて、姉さんがいなかったら俺はどうなっていたんだろう? 想像してゾクリ、としてしまった。
俺が家を出るのも葉子姉さんに協力してもらったんだ。
一二歳になった俺は、家にいるのがとにかく苦痛だった。
家の人間達の冷めた目も、魔法の実験という名で嫌がらせしてくる弟も、食事の場でも俺だけいない様に振る舞う父親も、魔法がいつまで経っても使えない自分も、その全てが苦痛だった。
そんな俺を見兼ねて葉子姉さんが一枚の紙を見せてきた。
そこには、デカデカと『ハンター養成学校あかつき』の文字が書かれていた。
これは? と姉さんに聞くと、魔法が使えなくても、ハンターには成れるんだから、頑張りなさい。そう言ってくれたんだ。
何であの父の血を引いているのに、こんな聖女のような人が生まれて来るんだと、疑問に思った瞬間だった。きっと母の血が色濃く出たんだろうな。
でだ、姉さんと色々書類を偽造…はしていない。ちゃんと用意して、父親にも知らせず入学試験を受けたんだ。そこで見事合格(才能があれば誰でも受かるんだけど)して、今に至るわけだ。
家を出る時には、流石に父親にもバレていたんだけど、何も言われなかった。俺は、少しだけ悲しかった。まだ期待していたんだと思う。最後に一言くらい、頑張れって言ってくれるのを。
魔術学校もハンター養成学校も行き着くところは同じ、ハンターだ。
何で学校が分かれているかと言えば、簡単な話。
魔法は規模や攻撃性が危険だというのもあるけど、魔法も学ばなければ、基礎魔法から一生進まないんだ。魔力の使い方も学ばなければいけないしね。
要は時間が掛かるってことだ。
俺も、魔法が使いたくて色々やったから大変さがよく分かる。魔力操作や魔力量については葉子姉さんから、私よりも凄い! とお墨付きを頂いている。俺を励ます為のウソなのはもちろん分かってるけど、嬉しかった。
そんな理由で、学校は分かれているわけなんだけど、もう一つあるんだ。こっちの方が影響は大きいかもしれない。
今から百年前に世界を襲い、今に続く魔粒子事変。ダンジョンやモンスターが出て来て日本も大混乱になったんだが、それを静めたのが七人の魔術師で、最初の権能持ちだったんだ。その子孫は、世に七大魔術大家と呼ばれている。俺の実家もその一つだ。
その七人の魔術師が最初の魔法学校を創ったのを皮切りに、ハンター養成学校もそれを参考に創られた。という経緯がある。
「じゃあ今日はこれで終わりだ! 皆も疲れてるだろうから、明日の為にしっかり休めよ。明日からハードな毎日が始まるからな。覚悟しておくように! よし、解散! そうだ、今日から食堂も使えるからな。ちゃんとメシ食えよ~」
全員の自己紹介やら、先生の話が終わって今日は終わりのようだ。
クラスメート達は話もそこそこに移動し始めた。皆寮だったり、食堂に向かうんだろう。俺は話し掛けられもしなかった。ちょっと悲しい。
俺も寮の部屋に行って荷物を片付けよう。
明日からハンターに成る為の毎日が始まるんだ。頑張ろう。
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