第31話 とある歴史系YouTuberの実例を題材に②

 次に想定される噴火規模と、

 『何故、噴火対策なのか』という疑問を具体的に紐解いていきましょう。



 噴火の規模を示す指標として、火山爆発指数というものがあります。

 VEIという単位で表され、0から8まで設定されております。


 具体的な例を上げますと、


 VEI=2 2000年有珠山噴火、2000年三宅島噴火

 VEI=3 1977年有珠山噴火、1986年伊豆大島噴火

 VEI=4 1991~1995年雲仙普賢岳噴火

 VEI=5 1707年『富士山宝永噴火』

 VEI=6 1991年『フィリピン・ピナトゥボ噴火』、1.5万年前十和田カルデラ噴火

 VEI=7 7000年前 鬼界カルデラ噴火、1815年タンボラ山噴火

 VEI=8 7.5万年前 トバ湖噴火 8.8万年前 阿蘇カルデラ噴火


 などが主な活動実歴になります。

 ※最近の御嶽山における水蒸気爆発噴火はVEI指数に含まれないほどの小規模とされています。人的被害が大きかったのは、この山が観光地であり多くの人が登山中だったことが理由とされています。


 最も注目すべきは、富士山宝永噴火と1991年のフィリピン・ピナトゥボ火山のVEI=5~6クラスの噴火でしょう。(ピナトゥボはVEI=5とする資料もあります)

 ピナトゥボ噴火は、現代に入ってから最も顕著で巨大な噴火であり、日本でもその影響が「平成の米騒動」として表れております。大規模な噴火はその周辺のみにとどまらず、地球規模での気象に影響を及ぼします。多くは、その翌年から翌翌年に掛けて大規模な冷夏に見舞われ農作物等に甚大に被害を及ぼします。

 この時の噴火による火山灰からなる雲は、125,000平方kmもの面積を覆い火山のあるルソン島のほぼ全域が太陽光線を遮られ闇に包まれました。

 


 では何故、この噴火に注目するのでしょうか。


 これは、大規模な噴火の詳細な記録と資料及び映像が多く残っているためです。そしてこの噴火は、1707年に起こったとされる富士山の宝永噴火と規模が近い(宝永噴火の方がだいぶ規模が小さいが)ため比較しやすく、実際の被害が想像しやすいということでもあります。


 そして最大の理由──


 この宝永噴火は、噴火開始の7週間ほど前に和歌山県沖で起こった「宝永地震」と呼ばれるM9クラスの巨大地震に連動して起こったというのが定説になっているからです。

 そう、この宝永地震は現在で言うところの「南海トラフ」の前回の地震活動なのです。学説でも、次のとされております。


 すなわち、南海トラフ巨大地震が起こった場合、高確率で富士山周辺とその風下は危険が増す、ということでもあるのです。

 Sさんがこれまで居住していた千葉県でも、場所によっては4~10cm程度の降灰が見込まれています。火山灰がそのくらい降ったら、インフラや社会活動はほぼ麻痺してしまう事は確実でしょう。東京にほんの数cm雪が降っただけでもあの騒ぎです。これが火山灰だったとしたら、その影響は計り知れません。


 震災の時に経験したことのある人も多いでしょうが、電車が停まると人々の移動は困難を極めます。当時も、帰宅困難者が百万人単位で発生しております。直接被害の無かった地域でさえもこのような大規模な混乱を招くのですから、これに火山灰が加わったらと考えると、恐ろしいことです。


 内閣府のざっくりとした試算ですが、首都圏だけで約1,000台の重機を3日間フル稼働させてようやく降灰3cm程度の状態から緊急車両が通行できるくらいまで復旧できるという報告がされています。(あくまで緊急車両のみ通行可能という想定です。一般車両ではありません)

 その上、これはかなり楽観的な試算であり実際にはもっと困難であることが予想されます。


 当時は、歩いて帰宅する人が多くいましたが、富士山噴火の場合は状況が少し違うかもしれません。

 降灰は光の届く範囲を著しく制限します。普段、明かりに満ちている大都市でも暗闇に近い状態になることが予想されます。足元も悪く粉塵が舞う中での徒歩での移動はとてもリスクが高いものです。前述の通り呼吸器や目に対するダメージ、転倒などのケースが予想されます。


 幸いというか、マスクの常備についてはコロナ禍でがありますので、その点ではあまり心配はないでしょう。火山灰はウイルスなどより粒子が大きく、普通のマスクで充分対応可能です。

 しかし、防塵メガネについてはどうでしょうか?

 ほとんどの人がそんなものの準備は無いでしょうし、その後の品不足で、おそらくコロナ禍のマスク騒ぎどころではない混乱を招くことが予想されます。

 マスクとは違い大きく嵩張るものでもあり、店頭で扱う量にも限界があります。おまけに製造メーカーもマスクほど多くはありませんし、そもそも一般的なものでもありません。

 そのかわり、繰り返し使えるもののため2~3個持っておけば当面は大丈夫という点では有利です。ぜひ、当該地域にお住いの方は今のうちに買っておいてください。


 さらに時間経過で顕在化してくるのは、水の問題です。


 富士山周辺域は、ご存知通り水資源の宝庫でもあります。

 これが噴火による環境の変化で、水資源の供給がストップしてしまうことも十分考えられます

 水源の枯渇の他に、浄水施設の停止という事も考えられます。

 数十センチ単位での降灰に見舞われると、最悪浄水施設が詰まったりしてストップしてしまうことが考えられるといいます。降灰は場所を選びませんので、当然河川などの水も汚染します。河から取水している地域ではその浄水処理に著しい困難が伴うことにもなります。

 すべからく、浄水施設というのは上流側に設置されているものです。自分の住んでいる地域に降灰が少ないからと言って、影響が無いわけではありません。


 現在、各浄水場は噴火時の降灰に備えて施設の浄水プールをシートで覆うなどの対策を進めています。関係各者の挺身に感謝したいと思います。


 東日本大震災時の貴重な教訓を持っている私達は、前回の状況を踏まえ最低でも一週間程度はできる備えをしておかなければなりません。状況は前回よりも過酷です。各人の備えが、一層求められる局面でもあるのです。

 南海トラフの地震と津波の被害想定域の外だからといって楽観はできません。

 富士山の噴火被害想定域というのも、併せて考えることが必要になります。


 ……③へつづく

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